─── 1993年を振り返ってみると、皇太子徳仁親王ご成婚、細川護熙連立政権が発足し、55年体制が崩壊。スポーツ界ではJリーグ(プロサッカーリーグ)がスタートします。一方この年は自然災害も多く、記録的な冷夏で深刻な米不足、輸入米に関する騒動がありました。国外に目をむければ、欧州連合(EU)が発足したのもこの年です。その1993年、音楽家として円熟期を迎えた織田さんが提供した楽曲はCDシングルだけで1,240万枚を超えるセールスを記録します。従来の記録を桁違いで破る日本記録を樹立。ミリオンセラー連発、ご自身のアルバムもオリジナルアルバム『T』、『SONGS』と二枚同時リリースします。今回はこの一年を振り返るところから、お話をお聞かせ下さい。
織田 了解。世間的には作曲家としての仕事が目立った年ですが、自分の中ではやはりアルバム二枚同時リリースということが楽しさもしんどさも一番大きかったと思います。当時スタジオのなかでコンピューター相手に音楽を作るという作業に俺自身相当煮詰まってきていてね。生でミュージシャンとやろうと思ったときに、どうせやるなら子供の頃からから好きだったミュージシャンやりたいと思い、アメリカに1ヶ月くらい滞在してレコーディングしました。気候の良い時に行ったこともあって、ロス(LA)ではとても気持ちよく作業が出来た(笑)。セッションは本当に楽しかったよ。ある程度のハコは日本で作っていって、ロスで歌以外の部分をほとんど完成させました。でも日本に帰ってきてからまだしばらく詞は悩んでいたな(苦笑)しかも『T』に「Christmas Song」を収録することを決めていたから、クリスマス前に発売しなくちゃいけなかったし。何とか12月23日に発売にこぎつけ、ギリギリセーフって感じだった。
─── 以前にも伺いましたがLos Angelsではビリー・プレストンをはじめ、サイモン・フィリップス、バーナード・パーディ、ロイ・ビタン、ボビー・キーズ、ジェフ・バクスター、ジミー・ハスケルやデニス・マトコスキーとまさに豪華メンバーとの共演でしたね。
織田 毎日スタジオへ行くのが楽しくて仕方がなかった。あの時のセッションはアマチュアの頃スタジオに行って、夢中で演奏していた頃のような楽しさがあって、初心に帰った思いがしました。
─── 楽曲提供の数も多かった年です。作曲だけというケースがほとんどのようですが。
織田 楽曲提供の場合、当時はギター一本か、ピアノだけでデモテープを作ることが多かったね。作曲だけの依頼の場合、曲作って渡したら、大抵アレンジ(編曲)や歌入れには一切口を出さなかった。後のことは全部お任せということで、曲がCDとして完成した後に初めて聞いてました。自分でアレンジまで手掛けていたら、元々いろいろと面倒くさいことをやりたがる性質だし、口も出したくなる。それがよくわかっていたので、口出しするのを止めていました。実際アレンジまでやっていたら、この十分の一も世に出ていなかったよ(笑)
─── 作曲と編曲の責任分担をハッキリさせていたということですか?
織田 責任の範囲が不明確だとトラブルの素だし、やっぱり責任の所在はハッキリさせないとね、何事も。何となく共同作業ね、っていう感じだと上手く行っているときはいいけれど、上手く行かなくなると、お互い人のせいにしたくなるでしょう。俺はそういうのが本当に嫌いでね。
─── 素人目には作曲者と編曲者の作業分担やその違いも分かりにくい気がします。
織田 そうだろうと思うよ。それは実際さまざまなケースがあるし。でも現場で作曲者がアレンジ(編曲)の仕事に口を出すって、本当に難しいんだよ。作曲者がスタジオに行ってアレンジャー(編曲者)に意見を言ったりすると、どうしても作曲者の意見に引っ張られがちだよね。でもアレンジの責任は編曲者にあるわけで。俺としてはアレンジャーの立場も理解できるだけに、作曲だけ受け持った時は一切口を出さないようにしてた。相談されれば当然協力するけど。完成した後でアレンジャーとその曲について話し合うこともまずしなかったな。俺の性格だといろいろ直したくなって、一曲に一ヶ月くらい時間を掛けたりしかねない(笑)
─── さて、1月にZARD「負けないで」2月に大黒摩季「チョット」3月にDEEN「このまま君だけを奪い去りたい」T-BOLAN「すれ違いの純情」4月にWANDS「愛を語るより口づけをかわそう」5月にZARD「揺れる想い」と大ヒット連発でした。
織田 ホント、よく売れたよね。今では考えられない、尋常じゃない数字だよね(笑)。前回話した「大きな波」がまさにやってきた時です。迂闊に調子に乗って俺自身ががんがん世に出ていったら、どうなっていたことか(苦笑)でもとりあえず当時ああいうムーブメントの時だから、せっかくなら記録に挑戦しようと考えていて、作曲の依頼にはドンドン応えようと頑張った一年でもあるんです。でもそれであの年はすごく作曲に時間をとられたかというとそうでもない。実はヒット曲って、時間掛けずにスムーズに出来た時の方が多いんですよ。時間を掛けすぎると上手く行かない方が多い。
─── ああすれば良かったと後悔することもありますか?
織田 そういうことばっかりですよ(笑)いまだに。
─── 前年に提供された中山美穂&WANDS「世界中の誰よりきっと」とZARD「負けないで」の曲、メロディーは元々ご自身のために作られたものだそうですね。
織田 この二曲は本来自分用に作ったんだけど、ちょうど依頼にぴったりだったんで渡してしまったんです(笑)。でも売れたからやっぱり自分で歌えば良かったと後悔しているかというと、そういうことでもない。ポップスとしての破壊力は別モノだから。曲って、結局は詞とメロディー、そして歌い手の声とのコンビネーションによって、人の心に残るものだと思っているし。「負けないで」のように坂井泉水さんの詞がメロディーによくはまって、あの曲も良くなった。彼女はコピーライターとしてのセンスも抜群でした。上杉昇にも詩人として天才的なものを感じていたし、実際、渡した曲、メロディーに良い詞を乗せてくれた。そういうコラボレーションによって、仕上がりが全然違うものになる。それが面白いところなんだよね。
─── この年、上杉さんはMANISH「声にならないほどに愛しい」、ZYYG「君が欲しくてたまらない」で作詞を担当され、織田さんとコンビを組んでいますね。翌年名曲「世界が終るまでは」では作詞家としての才能が大輪の花を咲かせます。
織田 去年出した『melodies』のライナー・ノーツで彼について書いたけど、上杉昇は文字で言うと「司」ではなく「寺」の方で書く「詩人」だと思う。本当に才能がある。
─── 7月DEEN「翼を広げて」8月宇徳敬子「あなたの夢の中そっと忍び込みたい」9月にはWink「咲き誇れ愛しさよ」DEEN「Memories」と途切れなくヒット曲が生まれます。
織田 詞の話でいうとWinkの「咲き誇れ愛しさよ」は大黒摩季の詞がメロディーによくはまったね。
─── 大黒さんとは11月ユニットを組んで「憂鬱(じょうねつ)は眠らない」をリリースしますね。
織田 大黒との出会いは、俺にしてはめったに引き受けない審査員の仕事で札幌に行って、そのオーディションで出会ったところから始まっています。その時のことを正直俺はあまり正確には覚えていないのに、彼女は良く覚えてくれている。自分を評価しなかったヤツとして(笑)その後上京して苦労もして、コーラスやレコーディングの時、裏方仕事もしていてね。その頃ちょこちょこ顔をあわせていたと思う。92年に彼女のセカンドシングル「DA・KA・RA」がミリオンセラーになって、その勢いもあって、一緒に仕事をすることになったんだけど、なかなか楽しいユニットだった。俺はこういう縁にはホント、恵まれているよね。
─── この年はテレサ・テンさんに「あなたと共に生きてゆく」に作詞 坂井泉水さんとのコンビで楽曲提供されています。テレサ・テンさんにとって人生最後のシングルになってしまったことは残念です。
織田 楽曲提供したものの、結局テレサ・テンさんにはお会いすることもできなかった。もっと一緒に仕事をしてみたかったのに、本当に残念です。
─── 織田さんの書く演歌を是非聴いてみたいというファンも多いのではないでしょうか?
織田 依頼があれば、いつでも。俺の場合ポップスやロックのイメージが強いけど、実は演歌得意なんですよ(笑)なにしろ小学生の時から盛り場うろついて青江美奈いいなあ、とか思ってた(笑)
─── そして12月オリジナルアルバム「T」と「SONGS」が同時発売となるわけですが、この時セルフカバーアルバム「SONGS」を出したのには何か理由があったのでしょうか?
織田 こういう流れのときだからこそ、他人に提供した楽曲をシンガーとして自分が別の形で完成させるのも面白いと思ってね。それまでの集大成として、お祭り的な記録として残しておきたいと思ったんです。
─── ありがとうございます。1994年以降の話はまた次回に譲ることとして、織田さんの2007年、年内のライブスケジュール(神戸、恵比寿)を掲載して、今回の結びとさせていただきます。次回は11月14日(水)ニュー・シングル『月ノ涙』発売日当日更新予定です。
織田 皆さんライブでお会いしましょう。
「織田哲郎 神戸ウィンターランドLIVE」 |
日時 |
11月16日(金) 開場19:00/開演19:30 |
会場 |
神戸ウィンターランド |
入場料 |
6,300円(税込) ※入場時別途1ドリンク(500円)
全自由(入場整理番号付) ※一部立見になる場合があります。 |
チケット |
電子チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード:273-988)
ローソンチケット 0570-084-005(Lコード:53854)
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