─── 今週から3週にわたって、新しいアルバム「One Night」についてお話を伺ってまいります。よろしくお願いします。まずその前にいくつかお聞きしたいことがあります。織田さんの場合、曲のアイディアをまとめていく際に、まずメロディーが先に生まれるのでしょうか、それとも歌詞が先ですか。
織田 ほとんどがメロディー優先ですね。他のアーティストに曲を提供する際には歌詞が先に送られてくることもまれにあるけれど、自分の作品の場合、詞が先にある事はまずないです。
─── 2005年楽器メーカーのRolandさんのインタビューに答えて、作曲の際に使う楽器の割合を「2/3はギターで、後の1/3は鍵盤」とおっしゃっていましたが、今でも、また今回のアルバムでも変わりありませんか?
織田 ちょっと変化してきて、最近ではさらにギターの割合が増えてきたかな。
─── 編曲(アレンジ)についても少しお聞きしたいのですが、織田さんが作曲し、ご自身ではなく別の方がアレンジをするケースについて、「これは上手くいった」というケースを教えて下さい。
織田 と聞かれて、すぐに思い浮かぶのは酒井法子さんに提供した「碧いうさぎ」かな。「わお、こんな仕上がりになるといいなと思っていたんだ!」といった感じでした。編曲(アレンジ)、歌唱すべての面で上手くいったケースでしょう。
─── これも共同作業(コラボレーション)をしていく上での楽しみ、そして喜びのひとつでしょうか?
織田 そう、上手くいけば、関わった人すべてが幸せになれるしね。
─── 続いて、アルバム制作時におけるコラボレーションについても、お話を伺います。これまでさまざまな音楽家との共演されてきた織田さんですが、14年前のアルバム「SONGS」、「T」の制作時はどうでしたか? この二作品ではLos Angelsでビリー・プレストンをはじめ、サイモン・フィリップス、バーナード・パーディ、ロイ・ビタン、ボビー・キーズ、ジェフ・バクスターなど、まさに文字通りキラ星の如くという表現にふさわしい大物ミュージシャンやジミー・ハスケルやデニス・マトコスキーなどの名アレンジャーとの共演が話題にもなりました。
織田 あれはね、すごく楽しかったなぁ(笑)。自分が演ってみたいミュージシャンと、相手の魅力をまず最大限に引き出し、相手のやりたいことを優先した上で、それに合わせてゆく楽しさがあったし…。それがいわゆるコラボレーションというものですよね。今回のアルバムでは、自分自身と徹底的に向き合って「自分が望む音」というものをガチガチに固めて作っていったので、そのペースにすべての人を付き合わせるわけにはいかないよね。その分自分でやる作業は必然的に増えたかな。とはいえ自分と向き合うことが出来た貴重な時間でもあったと思います。
─── 14年という時の流れの中で、ビリー・プレストンは昨年(2006年)亡くなられましたし、ジェフ・バクスターはミサイルの専門家としてアメリカではすっかり著名な軍事評論家になるし…。
織田 え。ちょっと待って、ジェフ・バクスターが?? マジ? そりゃあ、ビックリ。本当に? 驚いたなぁ。でもそういえば、レコーディングにも彼は迷彩柄の帽子を被ってきたことがあったなぁ。それにしても時のうつろいを感じるね。
─── 織田さんのこれまでの楽曲のなかでは、時のうつろい、流れについて、数々の名フレーズがありますね。代表曲「いつまでも変わらぬ愛を」も深い意味が幾重にも込められている名曲ですし…。
織田 自分のDIARYでも書いた記憶があるけれど、時に関する考察を歌詞にした楽曲は枚挙に暇がないですね。

─── それではニューアルバム「One Night」の話に戻します。全体を通して聞くと感じる多彩な音楽のエッセンスとそのきらめき、ジャンルにこだわらない深く豊かな織田さんの音楽性を味わうことが出来る素晴らしいアルバムだと思います。そこで敢えてご本人にお聞きします。私見で恐縮ですが、これまでの作品や今回のアルバムを聴いていて、さまざまな音楽を織田さんご自身が引き付けているというか、逆に音楽のほうから織田さんに近づいてきているような気さえしてくるのです。
織田 うーん。「ちゃんと感動する」ということを沢山してきたのかなぁと思います。
─── もう少し詳しくお話していただけますか?
織田 たとえば音楽でいうならば、「こういうジャンルだから聴かない」とか「この人だから聴かない」というように理屈が優先してしまうようなことは意識して避けてきました。どんなものにでも平たく接してみる。自分の中に先入観を出来るだけ持たずに聴いてみることって、とても大事だと思っています。
─── 出来そうで出来ないことのような気がします。
織田 まずどんなことにもフラットに接してみようよ。そうでないと勿体無い感じがするなぁ。「世の中にはこんなにたくさん面白いものがあるよ」って、いつも思っていないとね。先入観・偏見から自分自身を解放して、まずどんなものでも味わってみる。そのあとで良い悪い、好き嫌いを判断する、ということは絶えず意識しています。キチンとそう思い続けていないと、新しい発見や出会いを見過ごしてしまう…。
─── 少年のような素直な心と仙人のような目と…織田さんをよく知る周囲の方々に織田さんを一言で表現してもらうと、そのあたりの言葉がしばしば登場します。それが今のお話を聞いて、良く分かる気がします。ところで織田さんは子供のころからさまざまな音楽を聴かれてきたのですか?
織田 モンキーズもドアーズも同時に好きだったし、もっと言えば、森進一さんも好きだった。一本のカセットテープにさらにJ.S.バッハも入れて聴いていたしね。サイモン&ガーファンクルも好きだったし、プログレもグラムロックも好きだったよ。あの頃好きだった人たちは今でも好きです。たとえばT.レックスは今聴いても新しいと思う部分も多いし、緻密なアレンジが施されていると感心を新たにすることもあります。

─── ではそろそろ本題に入ります。「One Night」の12曲、その選曲と制作のイメージが固まってきたのはいつ頃ですか?
織田 今回のアルバムに収録された曲はデモテープを5〜6年前に作りはじめた曲が多いかな。その頃には大まかなコンセプトや方向性が出来ていた。候補曲が20〜30曲ぐらいあって、アルバムのラインナップに出たり入ったりしながら、ようやく最近固まりました(笑)。
 ─── ちょっと辛いことをお聞きすることになりますが、2000年、「キズナ」を発表された後、ヨーロッパへ旅に出られた。そして旅の途中、スペインで強盗に襲われ、首を絞められ、声帯を痛めてしまった・・・あの事件の後からということになりますね。たしか当時、お医者さんからは「もう歌えない」と宣告されたと…。
織田 自分自身を見つめ直す一番のきっかけになったのがあの事件だったと思います。「キズナ」を発表した頃、実は自分自身、心身のバランスが崩れてきてカラカラになってきているのが分かっていた。これはもうアルバムどころではないなと思った。思い出すのもしんどい時期ですね。それでヨーロッパへ旅に出た。そうしたら、あんなことになってしまって。事件の後、日本に帰ってきて、リハビリを続けながら、音楽について「自分は何が本当に好きか?」「自分は何をどう歌いたいのか?」そういうことをじっくり見つめ直す時期があってね。
─── それがこのアルバムのスタートになったということですか?
織田 リハビリ中に「好きな歌を好きなように歌う」ということしていてね。そして徐々に歌えるようになってきて、声は変わってしまったけれど、少しずつ戻ってきた…。そんな中で「ひょっとしたら、自分はエレキギターが嫌いかもしれないな」なんてことを思ったり(笑)。好きなものはいろいろあるけれど、どこまで好きなのか?そして本当に好きかどうかを深く掘り下げて考える過程のなかで、今回のアルバムのコンセプトが固まってきたと思います。
─── 「夜」といえば、静かに深くモノを考えるには良い時間帯だと共感する方も多いでしょう。
織田 夜しかイメージが広がらないのかもしれないね(笑)。
─── 今回、このアルバムの音源をお借りして、実は自宅で夜の深い時間に夫婦で聴いてみました。そこで家内が「織田さんって、心のなかに深い悲しみや闇をいっぱい抱えていそうよね…慰めてあげたいわ、余計なお世話かもしれないけれど…」って、ファースト・インプレッション(感想)を述べておりました。いやはや恐縮です(笑)。
織田 いやぁ〜、それはうれしいなぁ〜(笑) 慰めてほしいです(爆笑)。目指すところは「この子、どうにかしてあげなきゃ」と大人の女心をくすぐる情けない男の深い味わいだな。そのあたりを感じていただけるとうれしいな(笑)。
─── 音楽的には彩り豊かな味わいと洗練された完成度の高いPOPSがたっぷり味わえるアルバムだと思います。また詞世界では男の情けなさを素直に表現できることも、ある意味大人としての強さ、粋、洗練ではないかと思います。
織田 全体的に温度が低い男ばかりが出てくるよね(笑)。ストレートな熱血漢ではないことだけは確かだ(笑)。
─── きっちりと大人の男が矜持をもって生きていながらも、肩の力が抜けて、成熟のあとに迎える枯淡の境地とも思える詞も見えますが…。
織田 終っているよね。男として…(爆笑)まあ、頼られる人になんてなりたくない(笑)。でもまじめな話、人として矜持はとっても大切だよね。
─── 聴けば聴くほどに味が出る生楽器のさまざまな味わいを、文字通り老若男女に味わって欲しいなと心底思います。またギター好きにもたまらないアルバムだと思います。特にアコースティック・ギターがカッコイイなぁと…。では来週からアルバム収録された曲ごとに細かくお話を伺っていきたいと思います。それでは来週もよろしくお願いします。
織田 生楽器、そしてギターの音にはこだわっています。その辺は次号を待て!という感じかな。こちらこそ、よろしく。
─── 次週更新は5月9日(水)です。どうぞお楽しみに!
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