特集
「成功するインド株」
著者 高橋正樹氏 特別インタビュー
 いよいよ師走。出版社は俗に言う「年末進行」でおおわらわの毎日です。睡眠時間を極端に削って、自らを追い込む時期でもあります。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?忙しい毎日でお風邪など召しませんよう、くれぐれもご自愛下さい。

 さて、今週も本連載の目玉と考えていた敏腕ストラテジスト高橋さん提唱の「イメージ・トライアングル」の話を中心にお届けします。トライアングルをイメージするには、「投資しようとする銘柄に大きな影響を与える要因は何かを理解する姿勢」が必要になります。毎日のように飛び交う「材料」という情報から、重要なものを拾い上げる感度も大切です。

 皆さんからいただいた、「イメージ・トライアングル」について、もう少し詳しく解説して欲しいというご要望にもお応えして、じっくりお話を伺いました。ぜひゆっくりご覧下さい。
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第15回 「イメージ・トライアングル」の使い方

前回は、「超大国の成長市場」に投資をする際に、株価形成の特徴をつかんで、個別企業の投資価値をイメージしやすくするツール、「イメージ・トライアングル」についてのお話でしたね。
高橋 そうでしたね。イメージ・トライアングルは理解していただけましたか?
正直なところ、わかったような、わからないような…そんな感じです。ただ、イメージしたトライアングルの大きさ、つまりその銘柄の投資価値よりもその時の株価が安いと判断できたら、株を買えば良いことはわかりました。
高橋 その通りです。ちゃんと理解できているじゃないですか。
うーん、ただですねぇ、ここまでは理解できていると言ったほうがいいかもしれません。このお話には、まだ続きがありましたね。
高橋 イメ−ジした投資価値を現実の株価、具体的に言うと現在までの株価の推移と照らし合わせるということですか?
そうそう、それです。投資価値と株価の推移を照らし合わせる場合には、株価自体の分析が必要だとおっしゃってましたよね。
高橋 ええ、言いました。それが何か?
「それが何か」って、そんな冷たい流し方をしないでくださいよっ!(プンプン)
高橋 あれ、面白くなかったですか? うーん、スベったか…。Don't Michael!
すみません、“Don't Michael.”ってどう意味ですか?
高橋 えっ、知らないんですか? 小学生でも知ってるギャグなんですけど。
そうなんですか? そんなの知りませ〜ん。小学生しか知らないギャグなんじゃないですか(疑)。でもなんだか世間の事情に疎くなっちゃてるなぁ。「きっといまの私、仕事のしすぎなんだわ」ということで、今日はもう家に帰ってテレビを見ることにします。
高橋 テレビ、フォー!!って、おいおい、もう終わりかい!あれあれあれ。(彼方を指差し小声で)あのぉ、御社のおエラい方が何か言ってますよ。
本当だ…。「マジメにやれ」って怒ってるみたいですね。はぁ…(ため息)。 (編集部注:「ギャグの切れ味がなさすぎだ」と上司が申しておりました)
高橋 そうでもなさそうですよ(笑)。ではさっさと話を戻しましょう。
正直に言いますと、イメージ・トライアングルが今ひとつ理解できていないので、このままお話が先に進んじゃうとついていけない気がするんですよ。
高橋 なるほど。では今日はもう一回、イメージ・トライアングルのお話をしましょう。その上で、来週以降、『成功するインド株』でも触れていなかった、「株を売買している市場(投資家)がどんな姿勢で投資価値を織り込んできているのか」について説明して行きましょう。
すみませんねぇ、高橋さん。その優しさが胸に染みますよ(涙)。
高橋 仏の高橋ですから(笑)。ちょっとだけ予告編的にお話しておきますと…、私は、銘柄の投資価値とそれを評価する側である市場の期待の両方をイメージできてこそ、成果の上がる投資が可能になると考えています。どうしてかについては、もっとじっくりお話したいので、今回は止めておきます。今週は、もう一度、イメージ・トライアングルの話をしましょう。
ええ、ぜひぜひ。よろしくお願いします。
株価判断ツール ─ イメージ・トライアングル高橋 先週も説明しましたが、イメージ・トライアングルの頂点の下には、株主資本や剰余金を意味する会社の1株あたり純資産(BPS)があります。このBPSは、その企業が収益を得るための土台になるものです。自己資本をイメージしたら、これを土台に収益価値のイメージを広げていくんです。
なるほど、先週伺ったところですね。これは理解できました。
高橋 次に「色の濃い三角形」ですが、これは比較的予想しやすい今・来期の1株当たりの当期利益(EPS)に相当します。「土台の四角形(BPS)」に「色の濃い三角形(今・来期のEPS)」を積み上げて、なおかつ「横に伸びる三角形(将来の価値)」合わせたものが、銘柄の投資価値です。全体の面積を土台の四角形で割り算したものが、株価純資産倍率(PBR)という有名な投資尺度です。ここまではご理解いただけましたか?
だいぶ理解出来てきました。問題は、銘柄の将来に対する見通しが “明るくなる”ほどイメージ・トライアングルが大きくなり、逆に将来の見通しが厳しくなるほど、イメージ・トライアングルを小さくイメージするというあたりなんです。
高橋 そうです。いきなり核心を突いてきましたね。
イメージ・トライアングルは、三角形の「高さ」と「横幅の長さ」がポイントでしたね。
高橋 ええ、その通りです。「高さ」は企業の稼ぐ力(=収益力)を表し、「横幅の長さ」は見通せる時間を意味します。「見通せる」は「織り込める」とか「評価できる」と言ってもいいでしょう。
だから、収益力がアップするような材料が出た場合は、より高さのある三角形がイメージできるんでしたよね。それで、将来の事業展開に見通しが効くような銘柄では横幅が長くなり、逆に将来の事業展開を評価しにくい銘柄は横幅が短くなると…。
高橋 素晴らしい。ちゃんと理解できているじゃないですか。それでいいんですよ。 『成功するインド株』
えへへへ(照)。『成功するインド株』の第6章を読み返したおかげですね。
高橋 とりあえず、収益価値つまりイメージ・トライアングルは、その企業の収益力と今後の事業の展開力で変わると理解していただけばいいですよ。まあ、もうちょっと具体的に言えば、三角形を「収益性(ROE)×今後の事業展開力」でイメージするわけです。
ROE(自己資本利益率)は、株主などから預かった返済する必要のないお金(自己資本)を元手に、どれだけ利益を稼げるかを表わす指標ですね。それで、ROEはBPSの利回りのようなものだとも言えるんですよね。
高橋 ピンポーン、正解です。って、今日も虎の巻を見てましたね。
ええ、もちろんですよ。徐々に理解すればいいさって、開き直ることにしました。人生開き直りも肝心かと...。
高橋 それでいいんじゃないでしょうか。さて、「収益性(ROE)+今後の事業展開力」は、三角形の高さであり、頂点の角度(傾き)でもあるんです。
出来るだけ具体的に説明してもらえませんか。お願いします。
高橋 はい。たとえば、ある会社が、より収益性の高い新規事業を始めるとしましょう。この場合、三角形の角度が大きくなるので、全体の面積も大きくなります。言い換えれば、「高収益の新規事業に打って出る」という材料を好感して、株価が上昇するわけです。収益性が改善すると同時に、将来の見通しが明るくなったら、株価はいっそう上昇します。ちなみに、ここで言う収益性は、新規事業を立ち上げるために費やしたコスト(費用)を元手にどれだけ稼ぎ出せるかをさしています。
へぇ、そうなんですか。まあ、収益性がアップしそうなだけでなく、将来の見通しまで明るくなりそうなら、誰だって「今が買い時だ」って思いますものね。
高橋 そうなんですよ。ただし、株価は上昇しても、色の濃い三角形(今・来期の収益の予想)はあまり変わらないとも言えるんです。
どうしてですか?
高橋 証券業界や金融業界で手間隙かけて今期や来期のEPSを予想しています。これを受け入れた上で、その数値に無理がないどうかをご自身で考える程度にとどめたほうが無難というか得策からです。というわけで、株価は上昇してもEPSが変わらなければ、PERは高くなります。(編集部注:第14回「『超大国の成長市場』の株価判断」をご覧ください)
PER(株価収益率)は、「株価÷EPS(一株あたり当期利益)」で計算するからですね。
高橋 ええ、そうです。それと、今の例とは違い、当面の収益性には大きな影響は見られないものの、将来の事業展開は確実に明るくなるような場合もあります。
その会社独自の好材料はないけれど、政治や経済などの社会環境が好転して、『超大国の成長市場』自体の将来展望が明るくなった場合とかですね。
高橋 なかなかよくわかっているじゃないですか。その通りです。この場合は、横幅のみが長くなります。こういったケースは、事業環境の見通しが明るければ、株価上昇が見込めますが、将来の見通しが悪化すると、すぐに投資価値が小さくなってしまいます。
なるほどねぇ。だいぶクリアーになってきました。でも、まだ、いくつか引っかかることがあるんですよ。
高橋 どのあたりが引っかかるんですか? そういう突っ込みは大歓迎ですよ。
一応、オヤジギャグ系のネタも考えてきたんですけど、まずはマジメな突っ込みからさせていただきます。先ほど「株価は上昇しても、EPS(一株あたり当期利益)が変わらなければ、PER(株価収益率)は高くなります」とおっしゃっていましたが、それって「割高」だってことですか?
高橋 足下の企業収益に対して、株価が高いという意味です。ですが、株価は目先の企業収益だけでなく、その企業の将来性、成長性、市場動向などさまざまな理由があって形成されるんです。
要するに、PER(株価収益率)が高い=割高というわけではないんですか?
イメージ・トライアングルで見た成長株と割安株のイメージ高橋 はい、そう考えてください。PER(株価収益率)が上昇している株は、とりあえず、市場で高い評価を受けていると理解するべきです。そのうえで、「トライアングルの右側の部分が大きくなっている」とイメージし、その背景に何があるのかを考えながら情報収集、分析をするべきです。話をわかりやすくするために、成長株と割安株の違いをイメージ・トライアングルで表わしておきました。
成長株は、収益力や事業展開力があって将来の事業環境の見通しがいい、将来の収益価値が期待できる株ですね。
高橋 そう言っていいでしょう。時間の経過とともにトライアングルが拡大していくイメージの株だというのが大きな特徴です。そのため、将来期待できるリターンは、収益力や事業展開力、事業環境の見通しが変化すると大きく変わる可能性があります。
割安株はどうですか?
高橋 それに対し、割安株投資は、その銘柄の本来の価値を手堅く評価できる株に投資することが鍵になります。
その銘柄の本来の価値を手堅く評価することができて、なおかつ、それより株価が安くなっている銘柄を探して、投資するってことですか?
高橋 そうです。だから、投資するときのポイントは、将来性ではなく、手堅さと株価が安いかどうかにあります。
だとすると、イメージ・トライアングル自体は、そんなに大きくないということですよね?
高橋 そのようなケースが多いかもしれませんね。それと、ここで理解しておいて欲しいことがあります。割安株は、将来性が今よりもっと見えにくくなる可能性があるために、誰にも買われず、株価が安いままである可能性もあるんです。
その企業の将来性が見通しにくいために、投資家が買うのをためらっているから、PER(株価収益率)も低いってことですか?
高橋 その可能性もなきにしもあらずだということです。本来の価値を楽観的に評価するにはリスクがあるため、慎重に考えて、トライアングルを小さくイメージしなければなりません。つまり、割安ではなく、単に安いだけだと言ってもいいかもしれませんね。
なるほど、そうですか。わかりました。これで、疑問がひとつクリアになりました。
高橋 ひとつということは、まだ疑問があるんですね。
ええ、そうです。どういう場合にどのくらい三角形の高さが高くなり、どういう場合にどれだけ横幅が長くなるのかがわからないので、今ひとつトライアングルがイメージしにくいんですけど…。
高橋 うーん、そう来ましたか。それこそが核心部分であり、私がファンドマネージャーだった時代に編み出した秘法の部分でもあるんですよ。
まさか、企業秘密だから教えないなんて言わないでしょうね?
高橋 ええと、できればそうしたいんですが…。
そんなぁ…。あ、そうだ。いいことを教えてあげますよ。
高橋 え、いいことって、何ですか?
前回、インタビューの時間が夜遅かったので、食事をしましたよね。あの時、会社名で領収書をもらったんですけど、出すのが遅くなったら、もう受け付けてもらえなかったんですよ。つまり、こんな薄給の私が自腹で、高橋さんにオゴってあげたんですよ。だから、その秘法とやらをちゃんと教えてください! いいですねっ!!
高橋 えっ、わ、わ、わかりましたよ。じゃあ、来週からは秘法をお話しますから…。
お願いしますよ、絶対ですからねっ!!
高橋 は、はい、約束します。……って、なんだか、全然、納得いかないんですけど(笑)。


>>次週へ続く


「成功するインド株著者 高橋正樹 氏 特別インタビュー」 記事一覧
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  第13回 金融派生商品(デリバティブ)の使われ方
  第14回 『超大国の成長市場』の株価判断
第15回 「イメージ・トライアングル」の使い方
  第16回 「銘柄の投資価値」と「市場の期待」をイメージする
  第17回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その1−
  第18回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その2−
  第19回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その3−
  第20回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その4−
著者近影 著者PROFILE
高橋正樹 たかはし・まさき
現職は「岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジスト」。
元:アイザワ証券投資リサーチセンター・アジア担当ストラテジスト(本書執筆時)。
1963年生まれ。
日系投信会社、米系投資顧問会社を経て、2005年10月より現職。
ファンドマネージャー時代の全米運用パフォーマンスランキングは、2002〜2003年の2年間でアジア株部門が100社中35位、インド株部門24位(2003年のみでは12位)。この成績で注目を集め、日本では数少ないインド株投資経験者としても知られる。インド証券取引所の招きで精力的にインドの企業訪問をするなど、インドの最新情報にもくわしい。
国際公認投資アナリスト
日本証券アナリスト協会検定会員、検定テクニカルアナリスト


書影
書籍DATA
The Secret Of Success For The Indian Equity Investment
成功するインド株
出遅れない・失敗しない投資のための基礎知識
高橋 正樹 著
定価 1,575円
判型:四六判/並製
ページ数:192ページ
初版年月日:2005年08月23日
ISBN:4-7572-1141-4
 
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