前回のインタビューの時に、ICICI銀行などの超優良銀行が「大型増資をする」と言い出したというお話がありましたね。
高橋 おおっ、ちゃんと覚えているじゃないですか。
ええ、おかげさまで(笑)。毎週、勉強させていただいていますから。
高橋 素晴らしい(笑)。先週ご説明したのは共産党の反対で国有銀行の再編が頓挫しているということと、そのためにHDFC銀行やICICI銀行など優良銀行株の魅力が増して、盛んに買われているという話でしたね。
はい。それで優良銀行側が「増資をしてあげます」と言い出したんですよね。
高橋 そのとおりです。
そこでちょっと気になったんですが、増資ってHDFC銀行やICICI銀行にはどんなメリットがあるんですか?
高橋 イイ質問ですねぇ。前回もお話したように、インドには1991年の通貨危機の時に経営が悪化して、国営化された商業銀行がたくさんあります。これを将来的には7行程度を中核にして再編するんですが、その過程で外資系の銀行はもちろん、HDFC銀行やICICI銀行も買収に名乗りを上げようとしているわけです。とはいえ、買収をするためにはおカネが必要です。
あっ、わかりました。増資は買収するための資金をつくる手段というわけですね。
高橋 そう思っていただいても結構です。また、インドでは中産階級層の増大とともに住宅ローンや自動車ローン、消費者ローンなど個人向けの融資が伸びています。国有銀行の再編が進めば、当然この分野に注力してくるでしょうから、その前にできるだけ多くのビジネスチャンスを確保しておきたいはずです。そのための資金調達だとも言えるでしょう。その増資をインド国内だけでなく、外国人投資家を対象にニューヨーク証券取引所に上場するインド株のADRでも行おうというわけです。(編集部注:第1回「インド株を買うことはできるのですか?」をご覧下さい)
ということは、アメリカ株を扱っている証券会社に口座を持っていれば、私たち日本人投資家もインドの優良銀行の株を買うことができるんですね。
高橋 そういうことです。
それなら、ADRでインドの銀行株デビューもできますね。よーし、やるぞー!
高橋 そう来ましたか。それではいいことを教えてあげましょう。
えっ、な、なんですかっ!?
高橋 インド株ADRの取引には、ちょっとした注意とコツが必要なんです。
注意とコツですか?それはもう是非教えて下さい。
高橋 はい。ADRを取引する時にはプレミアムに注目する必要があるんですよ。
ああ、アーセナルとかマンチェスター・ユナイテッドとかがあるヤツ……って、それはプレミアリーグでしょっ...。
高橋 その下手なピン芸人みたいな「一人ボケ突っ込み」、かなり寒いんですけど(苦笑)。
ああーっ、今週は“お笑いの神様”が降りてこない。もうダメだぁ(泣)。
高橋 お笑い芸人じゃないんだから、そんなに悲観しなくてもいいでしょ(笑)。
それもそうですね。失礼しました。では、気を取り直してっと。そこで質問ですが、プレミアムとは何ですか?
高橋 インドの証券取引所で取引されている個別株(普通株)とADR(米国預託証券)との価格差のことです。外国人の個人投資家は現在インドの普通株を買うことができません。そのため世界中の投資家が米国株と同じように売買できるインド株のADRは、インドの普通株より高い値段がつきやすい傾向があるんです。
希少価値が高いから、値段も高くなるというわけですね。
高橋 そうです。それだけに、外国人投資家がインド株に対して売り姿勢になるとプレミアムは縮小しやすく、ADRのほうが普通株より大きく下がる傾向があります。逆に、外国人投資家が買い姿勢を強める時は、普通株よりADRのほうが株価を大きく上げる傾向もあるんですよ。
ADRは普通株より値動きが激しいってことですね。
高橋 はい。だからADRの投資をする場合には、底値を拾うのがコツなんです。そうすれば、プレミアムが拡大する分と株価の反発とでダブルの利益が得られる可能性があります。
一粒で二度おいしいってわけですね!
高橋 そうです。ただし、この方法は投資を中長期で考える場合には、あまり適していないんです。
どうしてですか?
高橋 先ほどお話した優良銀行の例のように、増資をして、株自体の供給量が増えると希少性は少なくなりますよね。その結果、プレミアムも縮小するわけです。
左のグラフでも、HDFC銀行のプレミアムはどんどん縮小していっていますよね。
高橋 はい。それと、遠からずインドの個別株が解禁される可能性があるので、インド株ADRの魅力が薄れていくことも長い目で考慮しておく必要もあります。ですから、たとえばタタ・モータースのように、比較的最近上場したインド株のADRは、あまりプレミアムがついていません(編集部注:左グラフをご参照下さい)。
将来的には、他のインド株のADRもタタ・モータースみたいになっていくんでしょうか?
高橋 ええ。私は、外国人投資家がインドの個別株を買うことができる日が近づけば近づくほど、プレミアム、つまり現地の普通株との価格差は縮まっていくと思います。
だから「中長期で考える場合には、あまり適していない」とおっしゃったんですね。となると、目先で株価が下がった時で、なおかつプレミアムがゼロ近くまで縮小しているような時に買うのがいいんですよね?
高橋 そのとおりです。
プレミアムが縮小しているかどうかは、どうすればわかりますか?
高橋 計算すれば簡単にわかりますよ。ADRの値段をインディアンルピーに換算し、ADRと普通株の交換比率に応じて割り算をし、普通株の値段と比較すればいいだけです。計算例をあげておきましたので参考になさってください。
ありがとうございます。うーん、それにしてもややこしそうな計算ですね…。
高橋 投資をするには、手間・暇と勉強が不可欠なんですよ。頑張って、ぜひADRをうまく使って投資をしてみて下さい。
わかりました。それにしてもインド株って奥が深いですね。プレミアムが縮小していて、しかも株価が反発しそうな時に買うとすごくオイシイけど、プレミアムが拡大しながら株価が大幅に上昇しているようなときに買ってしまうと、その後、プレミアムの縮小に伴って反落するときに利益が大きく吹っ飛ぶなんてねぇ(しみじみ)。
高橋 ええ、そりゃもう、軽くヤバイなんてモンじゃなくて、これは寿命が縮まるほどの衝撃ですよ。
………(しばし無言)。何だか寒気がする話ですね。その表情をうかがっていると、ファンドマネージャーという仕事の強烈なストレスとご苦労がほんの少しですけど、分かったような気がします。高橋さん、体にだけは気を付けて下さいね。
>>次週へ続く
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