特集
「成功するインド株」
著者 高橋正樹氏 特別インタビュー
 ご好評いただいております連載企画『成功するインド株』著者高橋正樹氏インタビューもいよいよインドの個別株式銘柄に言及してまいります。現在は日本国内からは直接投資が出来ない「個別銘柄」ではありますが、インド株の投資信託や『eワラント』のような金融派生商品を買うことができます。読者の皆様から個別銘柄についても是非解説して欲しいとのご要望を編集部宛に数多く頂戴しました。敏腕ストラテジストの高橋さんにまずインドの銀行株について、お話を伺いました。知られざるインドの銀行業界について、興味深いお話を伺っております。今週も切れ味鋭い解説をご堪能下さい。
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第9回 インドの銀行株について教えて下さい。

最近、小耳に挟んだ話ですが、中国株投資家の間では10月27日に4大国有銀行(中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行)のひとつ、中国建設銀行が上場する話で盛り上がっているようですね。
高橋 いきなりタイムリーな話題を振ってきましたね。気になりますか?
それはもう、気になりますよ。この連載で「インドと中国を一緒に理解して下さい」と教えていただきましたから...。(編集部注:第4回「超大国成長市場 インドと中国---投資先としての魅力を教えて下さい」をご覧下さい)
高橋 それでは今回は「銀行」のお話をしましょう。中国は2001年12月にWTO(世界貿易機関)への加盟をする際、2006年末までに銀行業界を自由化することに合意しています。そのため国有銀行の改革が急務なのです。
自由化ということは、外資系銀行への規制を撤廃するわけですね?
高橋 はい。そのためにも国有銀行を改革して、競争力を高める必要があります。その改革の手段として、国有の大手銀行を外国人投資家が参加できる香港市場(H株)に上場させて、体質改善を図ろうとしているわけです。
中国の企業にとっては、香港市場は外国の市場ですものね。
高橋 そうです。今後は、中国株における銀行株の存在が大きくなっていくと思いますよ。
この連載の中でも高橋さんから何度かお話を伺っていますが、「インドは中国をお手本に外資導入政策を進めている」とすると、インドでも今後、国有銀行を改革したり、国有銀行を次々と上場させたりするのでしょうか?
高橋 それがちょっと違うんです。
えっ、違うんですか?
高橋 そうなんですよ。金融業界は社会主義と資本主義の混合経済体制を採ってきたインドを象徴する業界なのです。インドではアジア通貨危機の6年前の1991年に通貨危機が起きたことは前にも説明しましたよね。
はい、伺いました。(編集部注:本連載の第5回「カースト」がインドの経済発展を阻害しませんか ?をご覧下さい)
高橋 たとえば我々のお隣の国、韓国では1998年に通貨危機が起きた時にIMF(国際通貨基金)の主導で銀行の再編が行われたことはご存じですか?
そういえば、そんな話があったような気がします…(汗)。
高橋 うーん。韓流ブームだし、韓国に対する知識も増えて、僕はこの説明でイケるかと思ったんですけど。
お恥ずかしい限りで...勉強不足がまたもや露呈してしまいました(冷汗)。でも韓国ドラマ「チャングムの誓い」は見ていますよ。
高橋 おっ、「チャングムの誓い」ですか! 実は私も毎週欠かさず見ているんですよ。今週はチャングムが何をしでかすのか、ハラハラドキドキしながら見ています。登場人物ではカンドックおじさん好きなんですけど...(編集部注:ここでドラマ「チャングムの誓い」の話で盛り上がり過ぎたため、この部分は大変面白いのですが、涙を呑んで割愛させていただきます)...これ以上しゃべるとネタバレになっちゃって、お叱りを受けそうだから止めておきますけど。
それが賢明かと…って、ここは「チャングムの誓い」ファンサイトじゃないんですけどぉー(笑)、そろそろ話を戻しましょう。
高橋 あ、そうでした(笑)。えーっと、銀行再編のお話でしたね。インドでも1991年の通貨危機の際にIMFが国有銀行の再編をしても不思議はないんですが、インドが世界最大の民主主義国家であるがゆえに国有銀行の再編がしにくかったのです。
今現在、国有企業の再編に反対する声があって、外資導入政策が中だるみしているのに似ていますね。
高橋 はい。そこでインド政府は世界銀行などの支援を受けて、飛び抜けて優れた民間銀行を公的に育てることにしたのです。それが、住宅ローンをはじめとする個人向けローンを中心に扱うHDFC(Housing Development Finance Corp)とその子会社のHDFC銀行(HDFC Bank)、企業向け融資が中心のICICI銀行(ICICI Bank)です。民間の銀行とはいっても、インド経済に強い影響力を持つ財閥系の銀行ではなく、外国人投資家が株主の中心で、その他にインド国内の投資信託や金融機関、法人、一般の個人投資家も株主になっています。
この場合の「外国人投資家」というのは、どういう人たちのことでしょうか?
高橋 この場合は、FIIと呼ばれる外国人機関投資家とDRと呼ばれる預託証券発行分の株主です。特にニューヨークで上場しているインドのADRについては、投資をする際の注意点や投資のコツも含めて、いずれきちんと説明する機会をいただきたいと思っています。
それはもう是非お願いします。それにしても、国主導で作った銀行の株主がインド政府でなく、外国人投資家とか国内機関投資家が中心になっているというのはすごい話ですね。
高橋 はい。株を保有する目的が銀行の支配ではなく、株価の上昇を追及する投資家ばかりですから、究極の民間企業だと言えるでしょう。そのため、経営内容が優れていることはもちろんですが、情報開示の姿勢も非常に優れています。
「インド人もビックリ!」な銀行だってことですね。
高橋 そのギャグ、古すぎますよ…。いつか言うんじゃないかとは思っていましたけど(笑)。ともあれ、HDFCやICICI銀行が他の国有銀行とは一線を画す質の高い銀行として発展しているわけです。インドの銀行業界が中国とちょっと違うことがおわかりになりましたか?
はい。ところでインドの株式市場に上場している銀行はありますか?
高橋 インドの代表的な株価指数であるセンセックス指数にもICICI銀行とHDSFC、HDFC銀行、そしてインドステイト銀行(State bank of India)が採用されています。優良な銀行が4行も採用されているため、センセックス指数では銀行株のウエイトが高くなっています。
インドには今でも国有銀行があるんですか?
高橋 たくさんありますよ。最大の国営の銀行は、先ほど名前をあげたインドステイト銀行です。これは国有銀行の総本山的な存在で、インドの中央銀行のインド連邦準備銀行(RBI)が大株主です。中央銀行がバックについていることもあって、経営状態もサービスも良好です。この銀行の傘下には、旧州立銀行が7行あります。
経営状態がいい国有銀行なら、改革しなくても良いのでは...?
高橋 この銀行は良いのですが、他の国有銀行にはあまり効率の良い経営が出来ていないところもあります。また、民間銀行として設立されたものの、通貨危機の時に経営が悪化して、国営化された商業銀行が19行あります。
ずいぶんたくさんありますね。
高橋 はい。ですが、将来的に10行未満に再編される見込みです。再編する際には、ICICIバンクやHDFCはもちろん、外資系の銀行も名乗りを上げることが予想されています。この買収チャンスを逃すまいと、既に大手の欧米系銀行はインド進出に必死になっています。
国有銀行は上場していないのでしょうか?
高橋 上場している銀行も数行あって、再編を通じて経営状態が良くなることが予想されるため、該当する銀行の銘柄を推奨しているアナリストも結構いるんですよ。
それなら、私たち日本人の個人投資家がインド株を買うことができるようになった時に、早速仕込んでおいて値上がりするのを待ちたいところですね。
高橋 うーん、株価的にはかなりボラティリティ(変動率)の高い展開になりそうですから、インド株が解禁されたとしてもインド株の初心者はすぐには手を出さない方が良いかもしれませんよ。例えば共産党は今も「国有行の再編は、従業員を減らして、外資系に売り渡すための悪政だ」と叫んでいます。一方市場には「国有銀行の再編が中だるみになるとHDFCやICICI銀行など優良銀行株の魅力が増す」との声もあって、優良銀行株の買いが旺盛になっています。すると早速、今度は優良銀行側が「そんなに株を買いたいなら、大型増資してあげます」と言い出したんです。
なんだかややこしい話ですね。これは素人には難しい相場展開になりそうですね。う〜む、これは悩みますねぇ。インドの銀行株は難しそうですから、私はとりあえず「中国建設銀行」を買うことにします。
高橋 おやおや、今週はそういうオチですか...ちょっと安易な気がしますが(苦笑)。


>>次週へ続く

「成功するインド株著者 高橋正樹 氏 特別インタビュー」 記事一覧
  第1回 インド株を買うことはできるのですか ?
  第2回 インド株って何 ?
  第3回 気になるインドとパキスタンの関係はどうですか ?
  第4回 超大国成長市場、インドと中国‐‐‐投資先としての魅力を教えて下さい。
  第5回 「カースト」がインドの経済発展を阻害しませんか ?
  第6回 インドの通貨制度について教えて下さい。
  第7回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その1−
  第8回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その2−
第9回 インドの銀行株について教えて下さい。
  第10回 インド株ADR(米国預託証券)の投資のコツを教えて下さい。
  第11回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その1−
  第12回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その2−
  第13回 金融派生商品(デリバティブ)の使われ方
  第14回 『超大国の成長市場』の株価判断
  第15回 「イメージ・トライアングル」の使い方
  第16回 「銘柄の投資価値」と「市場の期待」をイメージする
  第17回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その1−
  第18回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その2−
  第19回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その3−
  第20回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その4−
著者近影 著者PROFILE
高橋正樹 たかはし・まさき
現職は「岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジスト」。
元:アイザワ証券投資リサーチセンター・アジア担当ストラテジスト(本書執筆時)。
1963年生まれ。
日系投信会社、米系投資顧問会社を経て、2005年10月より現職。
ファンドマネージャー時代の全米運用パフォーマンスランキングは、2002〜2003年の2年間でアジア株部門が100社中35位、インド株部門24位(2003年のみでは12位)。この成績で注目を集め、日本では数少ないインド株投資経験者としても知られる。インド証券取引所の招きで精力的にインドの企業訪問をするなど、インドの最新情報にもくわしい。
国際公認投資アナリスト
日本証券アナリスト協会検定会員、検定テクニカルアナリスト


書影
書籍DATA
The Secret Of Success For The Indian Equity Investment
成功するインド株
出遅れない・失敗しない投資のための基礎知識
高橋 正樹 著
定価 1,575円
判型:四六判/並製
ページ数:192ページ
初版年月日:2005年08月23日
ISBN:4-7572-1141-4
 
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