7月にインドの外資系企業の工場で労働争議が起こったというニュースを耳にしたのですが、インドの経済発展に悪い影響を与えませんか?
高橋 結論から言ってしまうと、私はそれほど悪い影響はないと思っています。と言いますか、インドが経済発展をする過程で、避けては通れない一種の必然的なサイクルのひとつだと考えています。
いきなり難しそうな話の展開ですね。できるだけわかりやすく説明していただけませんか?
高橋 『成功するインド株』にも書きましたが、インドの経済発展のカギは、インドとパキスタンの関係改善と本格的な外資導入政策です。
この労働争議って、インドが一生懸命呼び込もうとしている外資系企業で起きた事件ですよ。外資系企業が進出を躊躇したら、外資導入政策が尻切れトンボになり、経済の成長も鈍化しちゃうんじゃありませんか?
高橋 なかなか鋭いツッコミですねぇ。だいぶインドのことがわかってきたようですが、ハハハハハ…。
笑ってごまかそうとしてませんか?
高橋 そんなつもりはありませんよ。ただ、人間って成長するものだなぁと思って(笑)…。さて、復習になりますが、インドは中国が採用した経済発展モデル、つまり外資を呼び込んで「世界の工場」として製造業を発展させ、国全体の底上げを図ろうとしています。外資を呼び込むためには、交通や電力などのインフラ整備が不可欠です。
ええ、そうでしたね。
高橋 インフラ整備を進めるためには資金が必要ですよね。その資金をどうやって調達するかというと、実はここでもインドは中国を見習っているのです。
それはどういうことですか?
高橋 インド政府は、国有企業14社程度について構造改革を行い、収益性が高く魅力のある企業にしたうえで、政府が保有する株式の10%を市場に放出してインフラ整備の資金を得ようと考えているのです。
国有企業を改革し、投資家たちが「この企業の株なら買いたい」と思える状態にしながら株を放出するわけですか。確かに中国でも同じようなことをしていますね。ところで、改革と言うと人員削減、俗に言うリストラがつきものですが…。
高橋 そうなんですよ。日本では「失われた10年」と言われた不況で株安の時期に、いろいろな企業でリストラが行われましたよね。
そうですね。
高橋 ところが、今、インドは経済も絶好調、株価も絶好調なんですよ。
確かに左のグラフを見てもインドの株価は好調ですね。
高橋 しかも、これまでインド経済は農業への依存度が高かったため、モンスーン時期の雨量が少ない年は農作物の生育が悪く、GDPがガクンと落ち込むような状態でした。でも、数々のインフラプロジェクトが既に立ち上がっていますので、モンスーンの時に雨が降らなくても、毎年7%超という高い経済成長が期待できる国になったと言っていい状態です。
インドの人たちは、「やっとインドに夜明けが来た!」と思えるようになったと...。でも、そんな時に自分がリストラされたりしたら、腹が立つでしょうねぇ…。
高橋 そうなんですよ! インドの現政権は、2004年5月に誕生した国民会議派を中心とする連立政権です。首相はマンモハン・シン氏、財務相はチダン・バラン氏です。詳しいことは拙著をお読みいただければと思いますが、この2人は1990年代初頭の通貨危機からインドを救った「新経済政策」を実現した参謀です。私は彼らを中心とした現在のインドをリードする政治家集団を「ドリームチーム」と呼んでいるんですけどね。
「ドリームチーム」ですか、期待できそうですね。それで連立政権に何か問題が起きたのでしょうか?
高橋 連立政権には共産党が参加しているのですが、その共産党が国有企業改革で失業者が出ることを国会の場で非難したのです。
なのにドリームチームが共産党の反対を押し切って、改革を断行しようとしたとか?
高橋 いえ、その逆です。と言うのは、来年、インドの一部の州で選挙があるのです。共産党としてはその選挙で票を伸ばしたい。有権者の指示を得るために人員削減に反対しているわけです。いっぽうのドリームチームは少数与党なので、共産党の協力が必要です。
ある程度は共産党の主張に妥協する必要があるのですね。
高橋 はい。政治的安定を確保するために妥協する必要があったことはもちろんですが、経済好調、株価好調だからこそ共産党の主張を拒否しにくかったことも確かでしょう。もっと言うと、非常に好調な局面だから「この場面では妥協しておいたほうが得策だ」と考えたも言えます。その結果、国有企業が上場して政府保有株を売却してインフラ整備の資金を得るどころか、国有企業の改革も進まなくなってしまっているのです。
結果として、一時的に外資導入政策も中だるみしているということですか?
高橋 そういうことです。
それじゃダメじゃないですか?
高橋 いえいえ、仮に株価が下落するようなことがあれば、ドリームチームは態度を変えてくるはずです。と、ここまでは現状の分析で、ここからが本題なんですが…。ややこしい話ですし、文字数の関係もあるので今回はここまでです。じゃ、私は銀座に用事があるんで…。
文字数とか何とか言って、遊びに行く時間になっただけじゃないでしょうね。インタビュー、まだ終わってないんですけどーーっ!
>>次週へ続く
|