特集
「成功するインド株」
著者 高橋正樹氏 特別インタビュー
10月から岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジストに活躍の場を移された『成功するインド株』の著者高橋正樹さん。この連載企画『成功するインド株』著者インタビューも7回目を迎えました。今回からインド経済が抱える問題、投資家にとってのリスクについて、じっくりお話を伺います。右肩上がりで成長を続けるインド経済。しかし、7月に報道された外資系企業で起こった労働争議のニュースに懸念を抱かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?いよいよ敏腕ストラテジストの高橋さんの本領発揮!この問題の背景をわかりやすく解説していただきました。2週にわたってお送りします。これからもこの連載企画にどうぞご期待下さい。
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第7回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その1−

7月にインドの外資系企業の工場で労働争議が起こったというニュースを耳にしたのですが、インドの経済発展に悪い影響を与えませんか?
高橋 結論から言ってしまうと、私はそれほど悪い影響はないと思っています。と言いますか、インドが経済発展をする過程で、避けては通れない一種の必然的なサイクルのひとつだと考えています。
いきなり難しそうな話の展開ですね。できるだけわかりやすく説明していただけませんか?
高橋 『成功するインド株』にも書きましたが、インドの経済発展のカギは、インドとパキスタンの関係改善と本格的な外資導入政策です。
この労働争議って、インドが一生懸命呼び込もうとしている外資系企業で起きた事件ですよ。外資系企業が進出を躊躇したら、外資導入政策が尻切れトンボになり、経済の成長も鈍化しちゃうんじゃありませんか?
高橋 なかなか鋭いツッコミですねぇ。だいぶインドのことがわかってきたようですが、ハハハハハ…。
笑ってごまかそうとしてませんか?
高橋 そんなつもりはありませんよ。ただ、人間って成長するものだなぁと思って(笑)…。さて、復習になりますが、インドは中国が採用した経済発展モデル、つまり外資を呼び込んで「世界の工場」として製造業を発展させ、国全体の底上げを図ろうとしています。外資を呼び込むためには、交通や電力などのインフラ整備が不可欠です。
ええ、そうでしたね。
高橋 インフラ整備を進めるためには資金が必要ですよね。その資金をどうやって調達するかというと、実はここでもインドは中国を見習っているのです。
それはどういうことですか?
高橋 インド政府は、国有企業14社程度について構造改革を行い、収益性が高く魅力のある企業にしたうえで、政府が保有する株式の10%を市場に放出してインフラ整備の資金を得ようと考えているのです。
国有企業を改革し、投資家たちが「この企業の株なら買いたい」と思える状態にしながら株を放出するわけですか。確かに中国でも同じようなことをしていますね。ところで、改革と言うと人員削減、俗に言うリストラがつきものですが…。
高橋 そうなんですよ。日本では「失われた10年」と言われた不況で株安の時期に、いろいろな企業でリストラが行われましたよね。
そうですね。
高橋 ところが、今、インドは経済も絶好調、株価も絶好調なんですよ。
確かに左のグラフを見てもインドの株価は好調ですね。
高橋 しかも、これまでインド経済は農業への依存度が高かったため、モンスーン時期の雨量が少ない年は農作物の生育が悪く、GDPがガクンと落ち込むような状態でした。でも、数々のインフラプロジェクトが既に立ち上がっていますので、モンスーンの時に雨が降らなくても、毎年7%超という高い経済成長が期待できる国になったと言っていい状態です。
インドの人たちは、「やっとインドに夜明けが来た!」と思えるようになったと...。でも、そんな時に自分がリストラされたりしたら、腹が立つでしょうねぇ…。
高橋 そうなんですよ! インドの現政権は、2004年5月に誕生した国民会議派を中心とする連立政権です。首相はマンモハン・シン氏、財務相はチダン・バラン氏です。詳しいことは拙著をお読みいただければと思いますが、この2人は1990年代初頭の通貨危機からインドを救った「新経済政策」を実現した参謀です。私は彼らを中心とした現在のインドをリードする政治家集団を「ドリームチーム」と呼んでいるんですけどね。
「ドリームチーム」ですか、期待できそうですね。それで連立政権に何か問題が起きたのでしょうか?
高橋 連立政権には共産党が参加しているのですが、その共産党が国有企業改革で失業者が出ることを国会の場で非難したのです。
なのにドリームチームが共産党の反対を押し切って、改革を断行しようとしたとか?
高橋 いえ、その逆です。と言うのは、来年、インドの一部の州で選挙があるのです。共産党としてはその選挙で票を伸ばしたい。有権者の指示を得るために人員削減に反対しているわけです。いっぽうのドリームチームは少数与党なので、共産党の協力が必要です。
ある程度は共産党の主張に妥協する必要があるのですね。
高橋 はい。政治的安定を確保するために妥協する必要があったことはもちろんですが、経済好調、株価好調だからこそ共産党の主張を拒否しにくかったことも確かでしょう。もっと言うと、非常に好調な局面だから「この場面では妥協しておいたほうが得策だ」と考えたも言えます。その結果、国有企業が上場して政府保有株を売却してインフラ整備の資金を得るどころか、国有企業の改革も進まなくなってしまっているのです。
結果として、一時的に外資導入政策も中だるみしているということですか?
高橋 そういうことです。
それじゃダメじゃないですか?
高橋 いえいえ、仮に株価が下落するようなことがあれば、ドリームチームは態度を変えてくるはずです。と、ここまでは現状の分析で、ここからが本題なんですが…。ややこしい話ですし、文字数の関係もあるので今回はここまでです。じゃ、私は銀座に用事があるんで…。
文字数とか何とか言って、遊びに行く時間になっただけじゃないでしょうね。インタビュー、まだ終わってないんですけどーーっ!


>>次週へ続く

「成功するインド株著者 高橋正樹 氏 特別インタビュー」 記事一覧
  第1回 インド株を買うことはできるのですか ?
  第2回 インド株って何 ?
  第3回 気になるインドとパキスタンの関係はどうですか ?
  第4回 超大国成長市場、インドと中国‐‐‐投資先としての魅力を教えて下さい。
  第5回 「カースト」がインドの経済発展を阻害しませんか ?
  第6回 インドの通貨制度について教えて下さい。
第7回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その1−
  第8回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その2−
  第9回 インドの銀行株について教えて下さい。
  第10回 インド株ADR(米国預託証券)の投資のコツを教えて下さい。
  第11回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その1−
  第12回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その2−
  第13回 金融派生商品(デリバティブ)の使われ方
  第14回 『超大国の成長市場』の株価判断
  第15回 「イメージ・トライアングル」の使い方
  第16回 「銘柄の投資価値」と「市場の期待」をイメージする
  第17回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その1−
  第18回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その2−
  第19回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その3−
  第20回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その4−
著者近影 著者PROFILE
高橋正樹 たかはし・まさき
現職は「岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジスト」。
元:アイザワ証券投資リサーチセンター・アジア担当ストラテジスト(本書執筆時)。
1963年生まれ。
日系投信会社、米系投資顧問会社を経て、2005年10月より現職。
ファンドマネージャー時代の全米運用パフォーマンスランキングは、2002〜2003年の2年間でアジア株部門が100社中35位、インド株部門24位(2003年のみでは12位)。この成績で注目を集め、日本では数少ないインド株投資経験者としても知られる。インド証券取引所の招きで精力的にインドの企業訪問をするなど、インドの最新情報にもくわしい。
国際公認投資アナリスト
日本証券アナリスト協会検定会員、検定テクニカルアナリスト


書影
書籍DATA
The Secret Of Success For The Indian Equity Investment
成功するインド株
出遅れない・失敗しない投資のための基礎知識
高橋 正樹 著
定価 1,575円
判型:四六判/並製
ページ数:192ページ
初版年月日:2005年08月23日
ISBN:4-7572-1141-4
 
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