特集
「成功するインド株」
著者 高橋正樹氏 特別インタビュー
 2005年8月26日にスタートした連載企画『成功するインド株』著者インタビューも今回で12回目を迎えました。季節は確実に移り変わり、秋も深まり、紅茶が美味しい季節になりました。インドは世界一の紅茶生産国。生産量が多いだけでなく、ウバ、セイロン、ダージリン、アッサム、ニルギリといった世界に名だたる紅茶を産する、紅茶大国。ティータイムを彩る紅茶ダージリンのルーツにも中国原産種、中国改良種、アッサム交配種などがあることをご存知の方も多いことでしょう。こんなところにも国境を接する両国の交流の歴史が見て取れます。豊かな食文化を有するインドと中国。お茶の歴史もこの両国抜きに語れないといっても過言ではありません。また、一口に中国茶といっても、実に様々な種類がありますが、皆さんはどんなお茶がお好みでしょうか?

 さて、先週に引き続きインドと中国の株価形成の違いについて、個別銘柄を例にして、高橋さんの鋭い分析を伺っています。インドを代表するタタ財閥の自動車会社のタタ・モータースと、中国でも人気の高いアコードを生産するホンダと広州市との合弁会社(広州ホンダ)を傘下に持つデンウエイ・モータースの株価を比較しながら、さらに詳しく、より具体的に「株価形成」のお話を伺ってまいります。投資の世界は奥が深いものですが、わかりやすく解説していただいております。それではお茶でも飲みながら、ゆっくりとお楽しみ下さい。
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第12回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その2−

前回のお話は、高橋さんが『成功するインド株』でも書かれている「インド株」と「中国株」を比較して理解する方法のいわば実践編でした。今回は、その続きでインドと中国の自動車会社を比較するんでしたね。
高橋 はい。インドの老舗財閥であるタタ財閥の自動車会社のタタ・モータースと、中国でも人気の高いアコードを生産するホンダと広州市との合弁会社(広州ホンダ)を傘下に持つデンウエイ・モータース(駿威汽車:以下、デンウエイ)の株価から、両国の株価形成の違いを説明しようと思います。
「株価形成の違い」ですか。う〜ん、いきなり難しいというか、まどろっこしい表現が出てきましたね。
高橋 言われてみれば確かにまどろっこしい表現ですねぇ。でも、それしか言いようがないと言うか…。
ところでデンウエイは「ホンダと広州市との合弁会社(広州ホンダ)を傘下に持つ」ということですが、どう理解すれば良いのでしょうか?
高橋 日本の中国株投資家の間では、デンウエイ=中国のホンダというイメージが強いですよね。でも、実はそうじゃないんです。デンウエイは、広州汽車とホンダとが出資して設立した合弁会社の広州ホンダに47.5%出資している持ち株会社です。
日本でも近頃よく耳にする「○○ホールディングス」みたいなものですか?
高橋 はい、おっしゃる通りです。
だから「広州ホンダを傘下に持つ企業」という表現になるわけですね。
高橋 その通りです。ちなみにデンウエイは香港市場にレッドチップスとして上場しています。
レッドチップスは、中国資本の香港企業、つまり事業は中国本土で展開しているけれど、本社は香港にある企業の株のことですよね。
高橋 そういう理解で良いと思います。さて、いよいよ、ここからが今回の本題です。デンウエイの場合、ROE(自己資本利益率)は約30%ですが、タタ・モータースでは約33%あります。
ROEは、その企業にとって返済する必要のない、株主などから預かったおカネを元手に、どれだけ利益を上げられたかを表す指標でしたよね?
高橋 その通りです。きちんと理解してますね、さすがです。これぞ学習効果ですね。
そりゃあ、いくらなんでも先週伺ったばかりですから、覚えてますよ(笑)。
タタ・モータースとデンウエイの比較
  タタ・
モータース
デンウエイ
PER(株価収益率) 約12倍 約8.6倍
PBR(株価純資産倍率) 約4倍 約2.5倍
ROE(自己資本利益率) 約33% 約30%
推定配当性向 約33% 約30%
配当利回り 約2.7% 約3.5%
予想増益率 約4% 約-5%

超大国成長市場の自動車株
高橋 これはこれは...大変失礼致しました(笑)。
ROEが30%を越えているということは、どちらも収益力が高い企業だってことですよね。それにしては、左の株価のグラフを見ると値動きにずいぶんと差がありますが…。
高橋 おっ、いいところに気がつきましたね。このグラフは、2002年末を起点に円換算で指数化したものです。2004年の春頃までは、両社とも「超大国の成長市場」の代表的な自動車株として、ほぼ同じスピード、同じ値幅で株価が上がってきていたんです。
2004年の春に株価がガクンと下がっていますが、ここでリコール騒ぎみたいな問題でも起きたんですか?
高橋 惜しいですね。ちょっと違うんです。でも、いいところをついてますよ。
また、そういうまどろっこしい表現を…。一体、どういうことですか?
高橋 株価が下がったのは、リコールのようなその企業独自の問題のせいじゃないんです。
と言うことは、国全体にかかわる問題で株価が下がったんですか?
高橋 ええ、そうなんです。この先の話をわかりやすくするために、ここで「成長株投資」と「割安株投資」という代表的な投資手法について簡単に説明しますね。
実はその二つのキーワードがとても気になっていたんです。マネー誌にも毎回登場しますし...、ぜひ、わかりやすく教えて下さい。お願いします。
高橋 はい、わかりました。成長株投資は、収益性が高くて、事業展開力のある銘柄に投資をすることです。高収益な展開力と将来的な見通しの明るさを評価して、投資することとも言えます。一方、「割安株投資」は、現時点で手堅く見込める企業の価値から見ても、株価が安く放置されていると判断できる銘柄に投資して、本来の価値に見合う株価まで回復する局面で儲ける手法です。ただし、その企業の将来性が悪化していくことを織り込みながら、どんどん安くなっていく場合もあるので、そう単純ではありません。もっと簡単に言うと、将来性が明るくなっていくことに重点をおくか、現状の保守的な評価に重きを置くかの違いだと思っていただいても良いでしょう。本来は、現状も将来性も吟味して、株価が割安かどうかを判断するのが投資の基本です。
今のご説明から判断すると、インド株や中国株への投資は、将来の成長性に期待をして投資をする「成長株投資」と言えそうですね?
高橋 ピンポ〜ン、大正解です。お見事!連載も12回目ともなると、呼吸もあってきましたよね。
私も小さなことからコツコツと...少しずつ成長させていただいております(笑)。先週のお話からすると、成長性を判断するためには、企業が事業を展開していく潜在的な力とシナリオを予想するんでしたっけ?
高橋 そうです。当たり前の話ですが、事業環境が明るいほど事業は展開しやすくなりますし、将来の事業環境が不透明になるほど事業展開の信頼性は低下します。
とすると、事業環境が明るい時は株を買いたがる人が大勢いるから、株価が上がりやすくなるけれど、事業環境が不透明な時には株を売りたがる人が増えて、株価が上がりにくくなるとも言えますよね?
高橋 そう言っていいでしょう。「超大国の成長市場」の場合、将来の事業環境を左右する最大のポイントは、政治・経済の動向です。世界中の投資家がインド企業の成長性を評価しはじめたのは、インドとパキスタンの劇的な関係改善と外資導入策への取り組みによって、インドの事業環境が好転することが期待できたからです。ところが、2004年春のインドの総選挙で、積極的に外資導入策を推し進めてきた前の政権(バジパイ政権)が破れてしまったんです。
それでインドの経済成長に不安を抱いた人たちがインド株を売ったから、タタ・モータースの株も一緒に値下がりしたんですね。
高橋 はい。成長市場の場合、株価が上がる局面では事業展開力の強い銘柄が市場全体の株価を牽引します。逆もしかりです。とはいえ、その後、2004年5月に誕生した国民会議派を中心とする現政権がバジパイ政権の外資導入策を引き継いだことで、インドの政治と経済の将来性への期待が回復しました。ドリームチームの登場で、政策の執行能力が格段にアップした格好になり、株価も上昇に転じて今に至るというわけです。
今のお話から想像すると、中国でもデンウエイの事業環境を左右するような政治や経済の変化があったんですか?
高橋 そうなんです。前回、中国では2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行った後、中国全土に「儲かりそうだ」と思われる事業をする企業が雨後の竹の子のようにできて、経済が過熱しすぎたために、2004年から是正策として、引き締め政策が打ち出されたことはお話しましたよね(編集部注:第11回「インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い−その1−」をご参照ください)。
はい、よく覚えています。
高橋 引き締め政策が打ち出される直前には、中国全土に自動車会社が150社以上もあったと言われているんですよ。
150社以上ですか!? 人口が13億人としても、それは多すぎますよね。
高橋 競争が激化したため、一時は自動車の値引き合戦まで起こったくらいです。そんなことが続いたら、自動車会社が共倒れになってしまいます。それで中国政府は、自動車業界の再編を進めることにしたわけです。
そうか、わかりました。業界再編のせいで、デンウエイの成長性に不透明感が出てきたんですね。
高橋 はい。中国政府としては、国産車の三大メーカーである第一汽車や上海汽車、東風自動車も育てなくちゃなりません。デンウエイ傘下には、最初に説明したとおり広州ホンダがありますが、ホンダはこれとは別に、東風汽車とも合弁会社の東風本田汽車を作り、日本でも人気の高いCR−Vの生産もしています。
ということは人気車種のアコードを生産するデンウエイといえども、将来に至るまで、安泰というわけではなさそうですね。
高橋 そうなんですよ。デンウエイは、業界再編で10年先、15年先まで考えた場合の事業力が漠然としたものになってしまったわけです。ちなみに、「漠然とした」と言う表現を使ったのは「将来性がなくなる」ということではなく、将来性を株価に織り込みにくいという事です。
ところでいま、インドの自動車業界は、どんな状況ですか?
高橋 インドの自動車メーカーは、指で数えられるくらいです。乗用車のナンバー1企業のマルチ・スズキ、商用車ナンバー2のタタ・モータース、バイクではナンバー1がヒーロー・ホンダ、ナンバー2がバジャジ・オートとなっています。この他にも、マヒンドラ・マヒンドラやTVSモーターなどがありますが、完成車メーカーは多くはありません。ですから「超大国の成長市場」の魅力でもあるスケールメリットを活かした収益性のある高成長のチャンスが多分にあるわけです。
将来の成長性が株価に織り込まれた分、インドの政治・経済の将来性への期待が回復した時に、タタ・モータースの株価は上がったと...、一方、デンウエイは自動車業界の再編によって、将来性の株価への織り込みが控えられているから、株価が上がりにくかったと理解すればよろしいでしょうか?
高橋 その通りです。中国の自動車業界の長期的な姿が見えてきて、デンウエイの位置付けも、もっとはっきりすれば、株価にも変化が出てくるでしょう。高収益な広州ホンダを傘下に持つデンウェイですから、いずれは長期的な姿も見えてくるはずです。ただし、そのためには、業界再編の全体像が見えてくることが必要条件となります。この点が、今後のデンウェイ株の急所でもあり、興味深いところだとも言えるでしょう。
なるほど、大変よくわかりました。
高橋 「超大国の成長市場」に投資をする場合は、市場全体の株価形成の特徴をつかんでおくと、今後の株価の動きが読み取りやすくなるはずです。その際に役立つのが、拙著『成功するインド株』の「第6章 成功するインド株の攻略方法」で紹介した『イメージ・トライアングル』です。ここでは詳しい説明は控えますので、ぜひ、拙著をお読みいただければと思います。
わかりました。そうそう、この間も『イメージ・トライアングル』についてアスペクトONLINE宛に問い合わせがありました。今、証券業界、機関投資家、勉強熱心な個人投資家などの間で、注目を集めている高橋流『イメージ・トライアングル』はリーサル・ウェポンですものね。これは本を買って、読んでいただかないと、我々としても商売あがったりですから(笑)。そろそろお時間でしょうか、う〜ん、う〜む...。
高橋 何か質問でも?お腹でも壊しました?ひょっとして風邪ですか?
いや、そうじゃなくて、今回は突っ込みどころが少なかったので、ギャグを言っていないなあと思って…。
高橋 何だそんなことで悩んでたんですか(笑)でもそれが何か?
いや、別に……。実はひそかにウケを狙っていたんですが、今回は不発でした、修行が足りないですよね(反省)。次回までに切れ味鋭いパンチの効いたギャグを考えておきます。
高橋 期待してますよぉ〜(爆笑)。それでは皆さんまた来週お会いしましょう。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ...。(編集部注:淀川長治先生風にお読み下さい、デキル男はモノマネも巧い...ということにしておきましょう...)


>>次週へ続く

「成功するインド株著者 高橋正樹 氏 特別インタビュー」 記事一覧
  第1回 インド株を買うことはできるのですか ?
  第2回 インド株って何 ?
  第3回 気になるインドとパキスタンの関係はどうですか ?
  第4回 超大国成長市場、インドと中国‐‐‐投資先としての魅力を教えて下さい。
  第5回 「カースト」がインドの経済発展を阻害しませんか ?
  第6回 インドの通貨制度について教えて下さい。
  第7回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その1−
  第8回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その2−
  第9回 インドの銀行株について教えて下さい。
  第10回 インド株ADR(米国預託証券)の投資のコツを教えて下さい。
  第11回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その1−
第12回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その2−
  第13回 金融派生商品(デリバティブ)の使われ方
  第14回 『超大国の成長市場』の株価判断
  第15回 「イメージ・トライアングル」の使い方
  第16回 「銘柄の投資価値」と「市場の期待」をイメージする
  第17回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その1−
  第18回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その2−
  第19回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その3−
  第20回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その4−
著者近影 著者PROFILE
高橋正樹 たかはし・まさき
現職は「岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジスト」。
元:アイザワ証券投資リサーチセンター・アジア担当ストラテジスト(本書執筆時)。
1963年生まれ。
日系投信会社、米系投資顧問会社を経て、2005年10月より現職。
ファンドマネージャー時代の全米運用パフォーマンスランキングは、2002〜2003年の2年間でアジア株部門が100社中35位、インド株部門24位(2003年のみでは12位)。この成績で注目を集め、日本では数少ないインド株投資経験者としても知られる。インド証券取引所の招きで精力的にインドの企業訪問をするなど、インドの最新情報にもくわしい。
国際公認投資アナリスト
日本証券アナリスト協会検定会員、検定テクニカルアナリスト


書影
書籍DATA
The Secret Of Success For The Indian Equity Investment
成功するインド株
出遅れない・失敗しない投資のための基礎知識
高橋 正樹 著
定価 1,575円
判型:四六判/並製
ページ数:192ページ
初版年月日:2005年08月23日
ISBN:4-7572-1141-4
 
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