インドにはカーストという階級制度があると言われますが、そのカーストが経済発展の妨げになりませんか?
高橋 結論から言ってしまいますと、私はカーストを打破しようとするエネルギーこそがインドの経済発展の原動力になっていると考えています。
カーストが経済発展の原動力になっているのですか?
高橋 ええ、私はそう思っています。
そもそもカーストってどういうものですか?解説していただけますか?
高橋 はい。カーストは、肌の色の違いから生まれた4種類のヴァルナという階級制度と、職業と血縁とが複雑に絡み合ってできたジャティーという集団とが作り出す階級制度的な慣習です。このうちのジャティーによって職業が決まり、世襲されるため、生まれた時に運命が決まってしまうのです。同じジャティー同士の結婚が規範なので、他のジャティーとの結婚も認められません。
その制度が今も残っているのですね。
高橋 カーストは1950年の制定された憲法で禁止されたのですが、習慣的、精神的には依然として残っています。ですが1990年代以降は習慣としてのカーストも廃れつつあります。
どうしてですか?
高橋 インドは他のアジア諸国より早く、1990年代初頭に通貨危機に陥りました。詳しいことは『成功するインド株』をお読みいただければと思いますが、その際にIMF(国際通貨基金)の支援を受けて『新経済政策』と呼ばれる自由化推進策を打ち出し、政策の大転換をはかりました。『新経済政策』では、IT関連産業の発展を最重要課題とし、IT関連産業を盛んにするため、インド各地に理工系の大学が増設されました。
それでインドがIT大国になったんですね。
高橋 はい。IT関連産業は20世紀の後半になってできた新しい産業ですから、古くからあるカーストとは無縁です。つまり理工系の大学に入り、IT関連企業に就職すれば、カーストの名残から完全に抜け出すことができるのです。ちょっと脱線しますけど、最近のインド映画には、低い階級だけれど工科大学に入学し、将来有望と言われる青年が、高い階級の娘と恋に落ち、周囲の反対に遭いながらも最終的には愛を貫くというストーリーがよくあります。これがねぇ、結構、感動しますよ。
へぇ、高橋さんって案外ロマンチストだったのですね…。(笑)それはさておき、一生懸命勉強して工科大学に入り、IT関連企業に就職すれば、低い階級の人でも立身出世できるというわけですね。
高橋 その通りです。低い階級の人でもアメリカなどの理工系大学に留学し、より高い教育を身につけ経済的に豊かになった人もたくさんいます。その姿を目の当たりにしているわけですから「僕も頑張って勉強して豊かになろう」「一生懸命働いて高所得者になろう」という意欲も生まれてきます。カーストを打ち破ろうとするエネルギーこそが経済発展の原動力になっていると申し上げたのは、そういうことなのです。
今後のインドは外資を導入し、安い労働力を提供して「世界の工場」になることで国全体の底上げを図ろうとしていると伺いましたが、それもカーストを打破するうえでプラスに作用しますか?
高橋 本格的な外資導入によって、今まで以上にカーストとは無縁の職業も増えるでしょう。また、雇用の場も機会も増えますから、誰もが豊かになるチャンスも増えるわけです。外資導入が進むことでカーストを打破しようとする人たちが増え、そのエネルギーを原動力にして、インドはますます劇的に変化していくと私は考えています。
>>次週へ続く
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