特集
「成功するインド株」
著者 高橋正樹氏 特別インタビュー
 今週も連載企画『成功するインド株』著者インタビューをお届けします。おかげさまで、今回で14週連続更新となるこの連載も右肩上がりのアクセス数の伸びを示し、平均滞在時間も回を追うごとに長くなってきました。読者の皆様の熱心さに、私たちスタッフも気持ちを引き締めて、今後の連載に取り組んで行こうと考えております。

 今週からはいよいよ今回の連載の目玉として考えていた「イメージ・トライアングル」と「株価判断」をテーマにお送りします。どうぞ今後とも本連載企画をご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。
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第14回 『超大国の成長市場』の株価判断

前回は、「金融派生商品(デリバティブ)の使われ方」を教えていただきました。正直にいうと、かなり難しい内容で、苦戦しました。でも「派生商品(デリバティブ)を使って、下落相場へ準備万端を整えている人たちもいる」という話が、前回の講義のおかげで、ようやく腑に落ちた気がします。
高橋 それは何よりですね。下落相場への心構えと準備は本当に重要ですよ。
おっしゃる通り、本当に貴重なお話でした。前回の話はデリバティブというだけで、一般の読者には敬遠されるのではと懸念していました。でも、それが予想を遥かに上回るアクセス数と連載史上最高の平均滞在時間には正直驚きました。皆さん、とても勉強熱心ですよ。
高橋 そうですか、それはよかった。たまには、相場にメスを入れるような内容の話もいいかもしれませんね。
ええ、今後もぜひよろしくお願いします。私の知り合いの證券マンも応援していましたよ。今週も頑張って参りましょう!
高橋 勉強熱心な読者の皆さんのご期待に添えるように、私も気合を入れて頑張ります!
ところで、一般に我々、素人投資家は、株価が急騰したり、急落したりするとオロオロしがちです。どうして、そうなったのかを考える心の余裕がないんです。
高橋 その気持ちはよくわかります。でもそれを克服しないとね。そのためには手間と時間を掛けて、勉強あるのみです。
そうなんですよね。でも前回のお話で、「なぜ相場が崩れて、しばらくしてから、株価が下落するスピードが速くなるのか?」ということを理解出来たので、これからは「下落相場での対処の仕方」をきちんと考えなきゃと思っています。
高橋 そうですね。下落相場に動じることなく、冷静に投資対象と向き合うことは大切です。それにしても、きちんと学習してるじゃないですか。
もちろんですよ。「成功する投資家」になりたいですからね。
高橋 いやはや恐れ入りました。相場が下落した時に、きちんと対処できるようになれば、株を塩漬けしないで済むようになりますよ。
カブは塩漬けより甘酢漬けのほうが美味しいですしね。
高橋 ……………(無言)。あのぉ〜、念のためうかがいますが、それ、ギャグ?
ええ、いや...(汗)じゃ、今のは聞かなかったことにして下さい。Delete!Delete!
高橋 聞かなかったことにしておきます(笑)。さて、今日は話を『超大国の成長市場』に戻しますね。以前、インド株や中国株への投資は、将来の成長性に期待をして、投資をする「成長株投資」だというお話をしました。 (編集部注:第12回「インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い−その2−」をご覧ください)
はい。成長株投資では、高収益な展開力と将来的な見通しの明るさを評価して投資するんでしたね。
高橋 おお、素晴らしい、その通りです。今日もバックナンバーを読んで、しっかり復習してから来られたんですか?
ええ。だんだんお話が専門的になってきたので、前の話が理解できていないとインタビューが出来なくなっちゃいますから…。読み返すと記憶が甦りますし、頭の中も整理出来ますしね。
高橋 実は僕も最近バックナンバーを読み返してから、ここへ来てるんです。
そうだったんですね(笑)。それはさておき話を戻しますが、成長株投資では、事業環境が明るい時は、株価が上がりやすくなるけれど、事業環境が不透明な時には、株価が上がりにくくなるんですよね。
高橋 そうです。「超大国の成長市場」の場合、将来の事業環境を大きく左右するのが、政治の安定と経済政策の動向だということもお話しましたよね。「市場全体の株価形成の特徴」をつかんでおくと、株価の動きが読み取りやすくなりますし、個別企業の投資価値をどこまで見込むのかをイメージしやすくなります。
そこで登場するのが、我々編集部内で、高橋メソッドとかリーサル・ウェポンとも呼んでいる「イメージ・トライアングル」ですね。
高橋 はい、その通りです。それにしても、高橋メソッドとはちょっと、こそばゆい感じもしますね(笑)。
せっかくですから、『成功するインド株』の第6章に出てくる“イメージ・トライアングル”について、簡単に説明していただけませんか?
高橋 了解しました。イメージ・トライアングルとは、将来の株価を三角形の面積で、イメージするものです。言い換えると、様々な経済・産業・企業に関する情報をイメージに変換するわけです。イメージできる三角形(トライアングル)の面積が大きくなる株に、将来投資妙味があるということを紹介しています。
投資妙味ですね。それは興味津々です。お続け下さい。
高橋 はい。ただし、トライアングルをイメージするには、「投資しようとする銘柄に大きな影響を与える要因は何なのかを理解する姿勢」が必要になります。毎日のように飛び交う「材料」という情報から、重要なものを拾い上げる感度も大切です。そして、材料に基づいて、投資価値のトライアングルを描くイメージ力も必要です。
イメージ力ってどういうことですか? ちょっと難しい話ですね。もっと詳しく教えて下さい。
高橋 投資しようとする銘柄の価値が、何によって、左右されるかを理解することは、投資をする上で非常に重要です。ところが、これが意識されているようで、意外とそうでもないんです。その銘柄の価値が何によって、左右されるかを考えていないと、場当たり的な投資になりかねないとも言えます。悔いを残す投資になることだってあります。
耳の痛いお話です。なんともはや...(汗)
高橋 投資しようとする銘柄の特性をイメージできないと、日々飛び込んでくるニュースなどの材料が、株価にプラスなのかマイナスなのかという短絡的な判断するようになってしまいます。これが当たり前になってくると、新しいニュースが出るたびに右往左往するようになるので、目が回っちゃうんですよ。
なるほど。だからイメージ・トライアングルを使って、企業の価値をイメージし、何が変わると三角形の面積がどう変わるかを視覚的に捉える方法が有効なんですね。
株価の動きは、市場の期待に左右される高橋 はい。みなさんにも、ぜひ「イメージ・トライアングル」という投資の必殺技を身につけていただければと思っています。
私も是非そうありたいと思っています。
高橋 『成功するインド株』にも書きましたが、イメージ・トライアングルのポイントは三角形の「高さ」と「横幅の長さ」です。「高さ」は企業の稼ぐ力(=収益力)を表し、「横幅の長さ」は時間を意味します。ですから、収益力がアップするような材料が出た場合は、より高さのある三角形がイメージできます。また、将来の事業展開を評価しにくい銘柄は横幅が短くなり、将来の展開に見通しが効く銘柄では横幅は長くなります。
たとえば、先日お話をうかがった中国株のように、業界再編のせいで自動車企業の将来図を描きにくくなった場合、自動車株はトライアングルの横幅が短くなるということを「イメージ」するわけですね。 (編集部注:第12回「インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違いーその2−」をご覧ください)
高橋 そういうことです。完璧な理解ですよ。素晴らしい!
ところで、三角形の頂点の下に四角い部分がありますよね。これは何なんですか?この図全体の見方をわかりやすく教えていただけませんか。

株価判断ツール ─ イメージ・トライアングル高橋 はい。それでは、左側の図をみてください。イメージ三角形の頂点の下には、株主が出資したおカネ(株主資本)を意味する会社の1株あたり純資産(BPS)があります。
BPSは、総資産からいずれ返済しなければならない借金を差し引いた純資産(株主資本)を、発行済み株式数で割り算したものですね。
高橋 ピンポーン、正解です。復習だけじゃなく、予習もしてきたんですね。なかなか関心じゃないですか。
いえ、最近、いきなりレベルが上がったので、ちゃんと勉強しないと話について行けないんですよ…。
高橋 ははは(笑い)、そうですか。投資をするなら手間、暇、そして弛まぬ努力、勉強が不可欠ですから、それはいい傾向ですよ。楽して儲かる話なんてありませんからね。
いやぁ、これまた耳が痛い。
高橋 では続けますよ。このBPSは、その企業が収益を得るための土台になるものです。自己資本をイメージしたら、これを土台に収益価値のイメージを広げていくんです。
商売をするための元手と考えれば良いですか?
高橋 そう言ってもいいでしょうね。「色の濃い三角形」は、比較的予想しやすい今・来期の1株当たりの当期利益(EPS)に相当します。
EPSは、純利益を発行済み株式数で割ったもので、株主が出資した株1株で、いくらの収益をあげたかを表わしているんですよね。
高橋 はい、正解です。今期や来期のEPSの予想は、市場関係者が切磋琢磨した上で、出していることはご存知ですよね。ですから、今期・来期のEPSに関しては、たとえば私が、今、出されている予想以上にイメージを広げる余地はあまりないんです。
えっ、そうなんですか?(驚)
高橋 それよりも、市場コンセンサスと呼ばれる、ある程度のラインで一致させた予想EPSを受け入れ、どうして、そう予想できるのかを理解する努力をした方が得策だともいえます。
高橋さんでも「イメージを広げる余地がない」なら、私のような素人がEPSの予想をしようというのは、到底無理な相談ですものね。
高橋 いや〜、なんと言いましょうか…。ま、そうなんですけどね(笑)。
やっぱり、そうですよね。高橋さん、プロですもの。
高橋 さて、話をイメージ・トライアングルに戻しますよ。「土台の四角形(BPS)」に「色の濃い三角形(今・来期のEPS)」を積み上げて、なおかつ「横に伸びる三角形(将来の価値)」合わせたものが、銘柄の投資価値とします。ちなみに、三角形全体の面積を土台の四角形で割り算したものが、株価純資産倍率(PBR)という有名な投資尺度になります。
PBRは、現在の株価が、1株当たりの純資産(BPS)の何倍まで買われているかを表わす投資指標ですね。PBRが1倍なら、株価と1株当たりの純資産が等しいことになり、1株に対する投資金額と1株当たりの解散価値が一致しているから、会社が解散しても、投資金額がそのまま戻ってくると…。
高橋 おやっ、机の下に何か隠し持っていませんか? なんだ、『成功するインド株』じゃないですか。虎の巻を持っていたんですね。でも、嬉しいです(笑)。
あ、バレちゃいましたね。株価指標がたくさんありすぎて、全部は覚え切れなかったんですよ…(ショボン)。
高橋 Don't Michaelです(爆笑)。徐々に自分のものにして下さい。じゃ、話を戻しますね。今度は、投資価値全体の面積を「色の濃い三角形(今・来期のEPS)」で割り算したものが、株価収益率(PER)です。
PERは何度も出てきたからわかりますよ。現在の株価と企業の収益力を比較し、株式の投資価値を判断するときに利用される尺度で、株価をEPSで割って計算するんですね。
高橋 はい、正解です。さて、その銘柄の将来に対する見通しが “明るくなる”ほどイメージ・トライアングルは大きくなります。逆に将来の見通しが厳しくなるほど小さくイメージします。それと、ここでひとつ断っておきたいことがあります。将来の収益を現在の価値に換算する場合、本当は、割引率というものを考慮しなければならないんです。
割引率ですか? 「お買い得情報」みたいなじゃないですか。いい言葉だな〜。
高橋 いやいや誤解してはいけません。割引率と言っても、別に「30%OFF」とかいう意味じゃありませんよ。
えっ、そうなんですか?
高橋 割引率は、市場(市場参加者=投資家)が株式投資に要求するリターンだと思ってください。通常は、リスクがないとされる定期預金の金利より、少し高い率を要求するはずです。だから、その分を割引いて、計算するのが常識なんです。わかりやすく言うと、将来発生する収益を現在の価値に換算する時には、小さく見積もることが常識になっているんです。
へぇ、そうなんですかぁ〜と言ってはみたものの...わかったような、わからないような…(汗)。
高橋 でも、“ここでは”割引率は気にしないでください。「超大国の成長市場」では、外国人投資家の影響が多いので、株を買うかどうかを検討する際に、その国の金利水準に左右される度合いは、思ったよりも小さいと考えてください。もちろん、世界的に債券の金利が上昇した場合には、外国人投資家のおカネが債券に向かうでしょうから、その分を厳しく割引いて考えればいいわけです。そんな理由で「超大国の成長市場」を考える場合は、割引率は敢えて無視していいと思うんです。
そうですか。少し安心しました。いやぁ、なんだか難しいお話でしたね。
高橋 まあ、イメージ・トライアングルは、さまざまな材料に対して、株価が上がるか下がるかを考える時に、三角形の面積が大きくなるか小さくなるかを視覚的にイメージすることが大切なんです。これさえ理解していただければ十分です。あとは、今、お話したことを応用して、どんなときに三角形が大きくなるのか、どのようなことが起きると大きくならないかをイメージして下さい。そうすることで、投資妙味を見出す新たな郷地にたどりつけるはずですよ。
要するに、その銘柄の投資価値をトライアングル(三角形)にイメージして、その面積を左右する重要な要因が何なのかを理解することが大切なんですね。同時に、トライアングルの大きさがどう変化するかをイメージし続ける姿勢が重要だと理解しましたが、どうですか?
高橋 その通りです。もちろん、イメージしたトライアングルの大きさよりも、その時の株価が安いと判断できたら、投資チャンスと考えて、アクションを起こす。つまり株を買えばイイわけです。言い換えると、トライアングルはもっと大きくなっていくとイメージ出来たら、株を保有し続けるわけです。でも、イメージだけで動けない人もいますし、動くべきでないという人もいます。
なるほど、難しい話ですが、今回のポイントのような気がします。もう少し、詳しく教えて下さい。
高橋 はい。イメ−ジした投資価値を現実の株価、より具体的に言えば、現在までの株価の推移と照らし合わせるんです。そこでは株価自体の分析、つまり、株を売買している市場(投資家)が「どんな姿勢で投資価値を織り込んできているのか」を理解する必要があります。本当のことを言うと、ここまで理解して、初めて成果の上がる投資妙味を見出せるんです。これについては拙著『成功するインド株』でも書けなかったことなので、後日改めてご説明しますね。
はい、お願いします。仮に今、説明してもらっても、現時点での私の理解の範疇を越えちゃうような気もしますし…。
『成功するインド株』高橋 そうですか。もし、今日の話で分からないことがあったら、、拙著『成功するインド株』をもう一度しっかり読み返していただければと思います。
はい!先生。
高橋 いいお返事ですねぇ(笑)。あれ、そういえば、今日もギャグがありませんでしたね。
いえ、2回言いましたよ。前回あまりにもベタなギャグだったので、今回はさらっと言って、クスックスッと笑えるようなギャグを目指したんですけど…。
高橋 聞かなかったことにしたヤツとか、お買い得情報とか、ですか?
それを言われると辛いわぁ(笑)。もう恥ずかしいじゃないですか!じゃあ、私は次回までにイメージ・トライアングルと株価判断の勉強をもっともっとして、自分のモノにしてきますから、高橋さんはギャグの勉強をしてきてくださいよね。
高橋 もしかして、これが今週のオチですかぁ……。何だかなぁ(笑)。


>>次週へ続く


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著者近影 著者PROFILE
高橋正樹 たかはし・まさき
現職は「岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジスト」。
元:アイザワ証券投資リサーチセンター・アジア担当ストラテジスト(本書執筆時)。
1963年生まれ。
日系投信会社、米系投資顧問会社を経て、2005年10月より現職。
ファンドマネージャー時代の全米運用パフォーマンスランキングは、2002〜2003年の2年間でアジア株部門が100社中35位、インド株部門24位(2003年のみでは12位)。この成績で注目を集め、日本では数少ないインド株投資経験者としても知られる。インド証券取引所の招きで精力的にインドの企業訪問をするなど、インドの最新情報にもくわしい。
国際公認投資アナリスト
日本証券アナリスト協会検定会員、検定テクニカルアナリスト


書影
書籍DATA
The Secret Of Success For The Indian Equity Investment
成功するインド株
出遅れない・失敗しない投資のための基礎知識
高橋 正樹 著
定価 1,575円
判型:四六判/並製
ページ数:192ページ
初版年月日:2005年08月23日
ISBN:4-7572-1141-4
 
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