特集
「成功するインド株」
著者 高橋正樹氏 特別インタビュー
 今週も前回に引き続き、インドで起こった労働争議がインド経済に与える影響などさまざまな投資リスクとその背景について、高橋さんにお話を伺っています。先週伺った超大国インドが経済発展してゆく上での「必然的なサイクル」だというお話には私も「目から鱗が落ちる」思いでした。
 今週はさらに切れ味鋭くインド経済が抱える諸問題とその背景、「外資導入政策」の中だるみや「過剰流動性相場」が折り返すリスク、株価の調整局面などさらに詳しく解説していただきました。特に社会インフラの整備は重要で、これからのインド経済を予測する上で、注目のキーワードの一つでしょう。つい先日起きたパキスタン北部大地震でも、インドが領有しているカシミール地方の壊滅的大打撃の様子には驚かされました。配信されてくる映像からも社会インフラの整備の重要性は、インドを知らない私たちにもおぼろげながら理解できるような気がしています。
 そんな中、これからが敏腕ストラテジストの本領発揮、インタビュー中に何度も唸ってしまうほど踏み込んだ内容の話になっています。いよいよ核心に迫るこの連載企画、業界関係者、機関投資家だけでなく、外国株投資に関心のある方々から続々とこの連載への感想を戴いております。ありがとうございます。今後もどうぞご期待下さい。また皆様からのご意見、ご感想を心よりお待ち申し上げております。ご感想はこちらのメールフォームからも受け付けております。よろしくお願いします。
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第8回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その2−

前回は7月にインドの外資系企業の工場で起きた「労働争議」が経済発展に与える影響について伺っていたんですが、インタビューの途中で高橋さんが遊びに行っちゃったので、お話が中断してしまったんですけど…。
高橋 えっ、そうでしたっけ?
銀座に用事があるとかなんとか。
高橋 あー、そうでした。ハハハ…。
笑い事じゃないですよっ!今度銀座に美味しいもの食べに連れて行ってくださいね、約束ですよ(笑)。さて、前回のお話では外資系企業で起こる労働争議が社会問題となったり、国有企業改革が頓挫したりする現象は、民主国家である超大国インド経済が発展する上での必然的なサイクルだということでしたね。現在のインド経済はまさに外資導入政策の中だるみ現象で、仮に株価が下がってくると、ドリームチームは再挑戦してくる…というところで終わったんです。
高橋 そうそう、これまで絶好調なインドの株価が下落するようなことになれば、ドリームチームは態度を変えてくるはずです。
と言うことは、インドの株価が下落するのですか?いきなりガッカリする発言ですね。いったいどういうことなのか、わかりやすく説明してください。
高橋 インドの株価は、外資導入政策の中だるみというあまり芳しくない情勢になっているにもかかわらず、下がるどころか、むしろ上がり続けています。
考えてみれば不思議な話ですよね。もしかしてインドの株価が上がった背景には、インドの経済発展への期待以外に何か理由があるのでしょうか?
高橋 おっ、鋭い指摘ですね。その通りなんです。
どんな理由ですか?ここがポイントのような気がします。詳しく教えてください。
高橋 実は、夏場まで「過剰流動性相場」になっていたため、アメリカや日本、中国など世界的に株価が上がっていました。もともと魅力のあるインド株は調整しにくかったのです。
“過剰流動性相場”ってどういうことですか?
高橋 簡単に言いますと、欧米の機関投資家や中東のオイルマネーなど世界中の投資資金が、株式市場に向かっている最中の状態と考えてください。とりあえず全員が買い尽くすまで、悪材料を無視してでも、株価が上昇するマネーゲームのような相場形成のことです。注目度の高いBRICsのような超大国市場にはおカネが流れ込みやすいわけです。グローバルなマネーフローについては、後日じっくり御説明する機会をください。
わかりました。是非お願いします。要するに、その「過剰流動性相場」とやらで、インドの情勢の変化に関係なく株価が上がってきたわけですね。
高橋 そうです。
株価はこのまま一本調子で上がり続けるわけではないのですね。大きく株価を下げるいわゆる「調整局面」も必ず訪れるということでしょうか?
高橋 私はそう考えています。と言うのは、「過剰流動性相場」が折り返すリスクも考えて欲しいと思うからです。米国株や為替の動向にヒントがあります。世界中の株価が上がっている場面では、機関投資家の立場に近い人であればあるほど、株を持っていなければなりませんし、一度は売っても買い直す場面です。
株価が上がっている時に株を買わずに現金のままで持っていたら、「株を持っていたら儲かったのに、どうして買わなかったんだ」ってことになりますものね。
高橋 はい。だから市場参加者全員が株を買い尽くして、もう買いたいと思う人がいなくなる瞬間まで、相場はいかざるを得ないのです。それが「過剰流動性相場」です。買う人がいなくなったところで、今度は相場を崩す人たちが出てくるわけですが、派生商品を使って「下落相場」に対して、準備万端整えている人たちもいるわけです。このような人たちの売りは、相場が転換してから出てくるのです。どうしてなのか、この辺が難しいところですので、いずれしっかりとご説明させていただきます。
派生商品を使って「下落相場」に準備する人たちの考えは難しそうですので、その辺もよろしくお願いします。要するに悪いニュースが出て株価が下がるわけではなく、買う人がいなくなったから、株価が下がるということですね。こんな風に私は理解しましたが、どうでしょう?
高橋 大ざっぱに言うとそういうことです。株価が下がると相場が好調だった時には、棚上げされていた悪い材料に目が向きやすくなります。
その悪材料が原因で株価が下がったと言われたりするわけですか?
高橋 そういう面もなきにしもあらずです。
もしかして、インドの場合は「外資導入政策が中だるみしたから、株価が下がった」ってことになるんじゃないですか?
高橋 先回りされちゃましたね。その通りです。ドリームチームは「外資導入政策が中だるみしたから、好調だった相場が調整した(=下がった)!このままではインド全体が豊かになることが難しくなる!やはり外資導入政策を推進しなければならない!そのためにはインフラを整備する必要がある」と言い出すはずです。ここがポイントです。
インフラ整備をするためには、外国から資金を呼び込む必要があるのですよね。そのためにも痛みを伴う国有企業改革を進め、政府はその株を市場で売却して、お金を調達する必要があるわけですね。
高橋 そうです。インドは財政赤字がGDPの4%台もある国ですから、国民も「将来豊かになるために、今は我慢するか」と思うはずですよ。
なるほど。そうすると次に何が必要になりますか?
高橋 まずインフラ整備の資金を得るためには、外国人投資家を呼び戻して株式市場を活性化させることが必要です。政府も保有株を売却しやすくなります。
2004年10月1日にキャピタルゲイン課税を緩和したのも、外国人投資家を呼び込んで市場を活性化することが目的でしたね。
高橋 はい。この先、インドの株価が下がるようなことがあった場合は、ドリームチームは何らかの市場活性化策を打ち出してくると予想しています。株式市場の活性化のためにできることは、たくさんあります。外国人投資家が直接投資できるようにすることもそのひとつです。国有企業の収益性を高めることもそうです。中国がそうしているじゃないですか?今だって、中国は4大国有銀行を大改革して、香港に上場させようと必死です。
と言うことは、仮にインドの株価が下落するようなことがあっても、近い将来、日本人の個人投資家もインド株を買うことができるようになるかもしれませんね!もっと言うと不謹慎かもしれませんが、下落したほうが事態は早まるとも言えませんか?
高橋 私はそう考えています。
それはいつ頃なのか、時期を予測できますか?
高橋 うーん、難しいですね。そう遠い話ではないと思いますが...。仮に調整しても、新たな期待が持てる超大国株ということです。
わくわくしますね。ともあれ、インドで起きた労働争議や政府保有の国有企業株の売り出し頓挫のニュースは、不安材料と言うより、今後痛みを伴う改革を進めるための「ガス抜き」になるのではないかという気がしてきました。
高橋 だから民主国家インドの“必然的なサイクル”だと申し上げたんです。
ということならば、インドの労働者の皆さんにもうひとがんばり暴れていただかないと!ハッスル!ハッスル!フォー!!
高橋 あのー、それはちょっと違うと思うんですけど…(苦笑)。


>>次週へ続く

「成功するインド株著者 高橋正樹 氏 特別インタビュー」 記事一覧
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  第7回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その1−
第8回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その2−
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  第11回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その1−
  第12回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その2−
  第13回 金融派生商品(デリバティブ)の使われ方
  第14回 『超大国の成長市場』の株価判断
  第15回 「イメージ・トライアングル」の使い方
  第16回 「銘柄の投資価値」と「市場の期待」をイメージする
  第17回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その1−
  第18回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その2−
  第19回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その3−
  第20回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その4−
著者近影 著者PROFILE
高橋正樹 たかはし・まさき
現職は「岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジスト」。
元:アイザワ証券投資リサーチセンター・アジア担当ストラテジスト(本書執筆時)。
1963年生まれ。
日系投信会社、米系投資顧問会社を経て、2005年10月より現職。
ファンドマネージャー時代の全米運用パフォーマンスランキングは、2002〜2003年の2年間でアジア株部門が100社中35位、インド株部門24位(2003年のみでは12位)。この成績で注目を集め、日本では数少ないインド株投資経験者としても知られる。インド証券取引所の招きで精力的にインドの企業訪問をするなど、インドの最新情報にもくわしい。
国際公認投資アナリスト
日本証券アナリスト協会検定会員、検定テクニカルアナリスト


書影
書籍DATA
The Secret Of Success For The Indian Equity Investment
成功するインド株
出遅れない・失敗しない投資のための基礎知識
高橋 正樹 著
定価 1,575円
判型:四六判/並製
ページ数:192ページ
初版年月日:2005年08月23日
ISBN:4-7572-1141-4
 
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