特集
「成功するインド株」
著者 高橋正樹氏 特別インタビュー
 今年第2四半期のGDP成長率8.1%と驚異的な急成長を遂げるインド経済。1991年の経済自由化をきっかけに、眠っていたインド人の起業家精神を目覚めさせたとも言われています。圧倒的に若い労働者人口、超大国の潜在力を背景に、インドが世界経済の主役の座に躍り出る日もそう遠い将来ではないでしょう。経済誌、マネー誌も相次いでインド特集を組んでいます。

 『成功するインド株』著者インタビュー連載企画への皆さんの関心も日を追うごとに高まり、アクセス数も伸び続けております。皆様のご期待に添えるようスタッフ一同、一層の精進を重ねてまいります。 よろしくお願いします。

 さあ、今週は市場で金融派生商品がどう使われているか、ストラテジスト高橋正樹氏の目線から、リアリティ溢れる貴重な解説を伺っています。読み応え充分の内容です。是非じっくり味わってみて下さい。
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第13回 金融派生商品(デリバティブ)の使われ方

最近、日本株の調子がいいみたいですね。「私も株を始めようかしら」って話を本当によく聞くようになりました。でも、誰も彼もが株の話をし始めた時には、その相場はもう終わりだって言うじゃないですか。実際はどうなんでしょうか?
高橋 確かにそう言われたりもしますね。
ということは、そろそろ、今の強気の相場も終わりなんでしょうか?
高橋 うーん、どうでしょうね。とりあえず、日本株のコメントは差し控えておきます。
そうですか…。それは残念です。でもいつか機会を作って下さい。お願いします。おねだりはさておき、話をインド株に移しましょう。インド株も10月末、ニューデリーでテロが起きた頃に、センセックス指数がちょっと下がりましたが、今はまた上がってきていますよね。
高橋 ええ、そうですね。ところで、今回の質問はこれまでのものと、ちょっと趣が違いますね。もしや日本株に参入しようとしているとか?
あ、バレましたね。実は…ボーナスシーズンも近づいてきましたし、ちょっと日本株でも仕込もうかなんて色気がね…。
高橋 わかりやすい人だなぁ…。
いやはや、お恥ずかしい限りで...でも、このインタビューでは、読者の期待に応えて、きちんとインド株の話をうかがいますよ。さあ、気を取り直してまいりましょう。今年の夏場までの上昇局面は、世界的な「過剰流動性相場」による「上げ」でしたよね。世界的に株価が上がる中、もともと魅力のあるインド株は調整しにくかったという話でした。
高橋 はい、たしかにそういう相場展開でしたね。
とりあえず、市場参加者全員が株を買い尽くすまでは、悪材料を無視してでも、株価が上昇するマネーゲームのような相場が形成されてきたという理解でよろしいですか?
高橋 まさにその通りです。
中でも、注目度の高いBRICsのような超大国の成長市場にはおカネが流れ込みやすいから、インド株も多少の悪材料が出ても、下がりにくいということだったと記憶していますが...。
高橋 はい。ですが、株価はこのまま“一本調子”で上がり続けるわけではなく、いずれ株価が調整する局面も訪れるだろうとお話しました。それにしても、よく覚えているじゃないですか。
いやいや、それほどでも…(照)。毎回インタビュー前に、この連載のバックナンバーを読み返して、復習していますから。
高橋 そうでしたか。勉強熱心ですよね。素晴らしい!
それで、高橋さんが「後日、説明します」とおっしゃったまま放置されているテーマを発見してしまいました。
高橋 えっ、そんなのありましたっけ?(驚)
ありますよ。もちろん、いずれお話されるつもりで、敢えて、触れないこともあるのかと思っていましたが、「派生商品を使って、下落相場へ準備万端整えている人たちもいる…」というお話は、今のうちにお伺いした方が良いかなあと思いまして…。
高橋 ああ、そういえば、そういうお話もしました。下落相場に対する準備を整えている人たちの売りは、相場が転換してから出てくるという話ですね。じゃあ、今日は、そのお話をしましょうか。
そもそも下落相場に対する準備万端を整えるとは、どういうことでしょうか?まず、そのあたりから教えてください。
高橋 わかりました。準備には、金融派生商品というものを使います。一般的には、下落に対する準備は売ることですよね。でも、売った後に株価が上がると悔しいじゃないですか。いわば相場の逆を張った感じの結果になるわけですから…。ところが、金融派生商品を利用して、下落に対する準備しておけば、株価が上がった場合は現物の持ちで儲かるし、下がった場合も焦って、売り急がなくて済みます。もっと言うと、保有してきた株を売らずに、株価の下落に対応できるのですよ。
へぇー、便利な商品ですね。ところで、金融派生商品とはどのようなものですか? 何だか難しそうなので、これまで避けて通って来たもので…、ぜひとも、基本から教えて下さい。
高橋 たとえば、金融商品と言った場合には、株式や債券、預貯金、外国為替などがありますね。この金融商品の持つリスクを低下させる目的や、逆にリスクを覚悟したうえでより高い利益を追求する目的で考案された手法がデリバティブです。
ああ、ピザとか持ってきてくれるやつ…。
高橋 それはデリバリー…だっちゅーの! って、ついつい、ツッコミをいれたくなっちゃいましたが、そのボケはちょっとねぇ〜(笑)。
すみません。完全にスベっちゃいました(恥)。最近突っ込みも鋭いですね。おっと話がそれそうなので…、元へ戻しましょう。デリバティブの話でしたね。どうぞ、お話を先に進めて下さい…。
高橋 はい。デリバティブのことを日本では金融派生商品(以下、派生商品)と呼んでいます。大きく分けると先物取引、オプション取引、スワップ取引の3つがあります。これらを組み合わせたものもあります。でも、この説明をしていると長くなってしまうので、今回は割愛します。金融派生商品について、詳しく、わかりやすい解説をしてくれている優秀なWebサイトもありますので、一度是非のぞいてみて下さい。
はい、わかりました。あっ、そういえば『金融広報中央委員会』というわかりやすく丁寧な説明があるサイトを思い出しました。このあたりを読んでおくと、この先のお話が理解しやすそうですね。
高橋 そうです。『金融広報中央委員会』の解説は、実にわかりやすいと私も思います。では私もちょっと頑張って、わかりやすく説明してみましょう。例えば来年の3月末までにセンセックス指数が7000ポイントを下回らなければ、10%の金利をもらえるという商品というようなものがあるとします。
「というようなものがある」という仮定ですよね。
高橋 はい。ここで「そんなオイシイ商品があったら、とっくに買ってますよぉ」とツッコミを入れたいんでしょ?
よくおわかりで…。だんだんお互いの読みが当たるようになって来ましたよね(笑)。
高橋 だいたい読めてきましたからね、エヘヘ。さて、こういう商品は、買う側はセンセックスが下がって、7000ポイントを下回った場合は10%の金利はもらえませんし、7000ポイントを割り込んだ分は損失になります。もちろん、派生商品を買う人は、センセックス指数が7000ポイントを下回ったら、損をすることもわかっているけれど、「よもや、センセックス指数が7000ポイントを割り込むことはあるまい」と思って、この商品を買うわけです。
たしかに今みたいに相場全体が強気の時に、センセックス指数が7000ポイントを下回るなんて考えにくいですものね。
高橋 そうかもしれません。気をつけなければならないのは、派生商品は「組成された」商品だということです。
それは、どういうことですか? 詳しく説明してください。
高橋 現物株だって、売る人がいるから買える人がいるわけですよね。それと同じように、派生商品でも、センセックス指数が7000ポイント以上になっている限り、必ず10%の金利を支払う人がいるわけです。
言われてみれば、10%の金利の出所があるわけですよね。
高橋  その通りです。この商品を販売する(出す)側、投資銀行などが存在するわけです。この派生商品を作っている側は、センセックス指数が7000ポイントを下回ると、この商品を買った人に対し、10%の金利を支払わずに済む上に、7000ポイントを割り込んだ分も利益になります。つまり、センセックス指数が下がった方が儲かるわけです。買う側(投資家)にとっては元本は保証されていない商品です。
そうなのですね…。なるほど、なるほど。
高橋 ええ。で、ここまでは投資の教科書に書いてあるお話で、ここからは実際に行われていることです。このような商品が売れるとしたら、それは相場が強気だからです。だからと言って、相場が下落しても、投資家が得する商品を出す側は、相場が上昇すると損をするわけです。だから、株価が上がれば儲かるもの、たとえばインドの主要な現物株のポートフォリオを持っていないと大変です。
商品を出す側もセンセックス指数が上がった場合に、ちゃんと儲かる部分があるわけですね。
高橋 はい。派生商品のイメージをわかりやすい例でお話したつもりですが、いかがでしたか?
うーん、わかったような、わからないような…。やっぱり難しいですねぇ。
高橋 そうですか。でも、本題はここからです。先ほども言いましたが、下落リスクに対応するには、主要株、たとえば、さっき例に出したインドの主要な現物株のポートフォリオを売って、利益を確定しにいきますよね。この場合、できるだけ高いところで売りたいから、どのタイミングが売り場なのかを一生懸命に探すはずです。
できることなら、相場の底で買って、天井で売って、たくさん儲けたいですものね。それが人情というものでしょう。
高橋 その通りです。ところが、派生商品の売り手はそう思わなくてもいいのです。だって、センセックス指数が7000ポイントを割り込んだ場合に儲かる別の商品を持っているわけですから。
それが、「準備万端な状態」ですね。確かに、株価が上がっても下がっても儲かるわけだから、持ち株の売り場を必死に探さなくても済みますね。あっ、わかりましたよ。派生商品の売り手は、リスクをとって、派生商品を提供しているわけではないんですね。
プットオプションの損益
編集部注1:今回本文中で説明している架空の派生商品は、「商品を提供者(=派生商品を販売する側、投資銀行など)」が下落相場で利益を得ることを目的に、プットオプションを利用して作っている商品という設定で説明しております。上の図に当てはめて考えると、「プットオプションの買い手」は、本文中の「商品の提供者(=派生商品を販売する側、投資銀行など)」に該当します。「プットオプションの売り手」にあたるのは「商品を買う側(=投資家など)」となります。
注2:プットオプションとは、あらかじめ決めた「行使価格で商品を売る権利」のことをいいます。将来商品を売却する予定があるときに、価格が値下がりする恐れがある場合、プッ トオプションを買っておきます。その場合、この権利を手入れるために権利料(オプション料)を支払います。売買時の市場価格が行使価格より下がれば、権利行使することで市場価 格より高く売ることが出来ます。反対に売買時の市場価格が行使価格よりも高ければ、権利放棄します。市場価格で売るほうが権利行使により、行使価格で売るよりも高く売ることが 出来るからです。(引用:金融広報中央委員会「やさしいデリバティブ」オプション取引その3)
高橋 おっ、鋭いですね。現物株と違って、派生商品は上がって儲かる人と、下がって儲かる人の両方がいるゼロサムゲームの世界です。架空の具体例で説明しますね。相場上昇で、一定の利回りが確保できる派生商品の出し手は、相場が上昇する場面では一定の損失が出ることになりますが、相場が下落した場合には利益を得られることになります。これを専門的には「プットオプションを提供すると、その提供者はプットオプションの売りポジションを持つことになる」と言います。
ああ、それ、CMで最近良く見かける新しいお菓子の名前ですね。
高橋 それは『ぷっちょ』でしょ…って、また、ついついツッコンでしまいました。そのボケはBADです。
はい……。すみません(反省)。
高橋 プットの派生商品が出回るということは、下落相場に対応できた人が増えることを意味します。現物株を売らなくても下落に対応できる人が増えるため、本来ならば市場に出てくるはずの現物株の売りが出てこなくなるわけです。
じゃあ、その人たちは、いつ保有している主要株を売るのですか?
高橋 明らかに上昇相場が崩れ始めたと思えるようになってから、売れるでしょうね。
だから、相場が崩れ始めてから、ようやく売り物が急増するわけですね。
高橋 はい。よく株関連のニュースで、「ヘッジファンドなどが相場を売り崩している」って解説される時があります。ああいう時、「値ごろ感から押し目買いをしたくなるような値段なのに、誰が売っているんだ!」って、はらわた煮えくりかえる思いですよ。
派生商品でヘッジできた人だから、そんな値段でも売れるというわけですか?
高橋 はい。派生商品の登場は、相場が崩れた場合でも、必ずしもすぐに現物を売り出さずに済む人たちを登場させたため、株価が崩れ始めてからの下落スピードを速めさせる効果をもたらしたと私は思っています。“今どき”の相場の世界ならではの現象とでも言いましょうか...。
派生商品の陰に、「これから現れる売り圧力あり」という感じですね。
高橋 そんな感じです。でも実に巧い表現ですね。驚きましたよ。座布団1枚!って感じですよ。
誉められると調子に乗っちゃいそうなので、謙虚にいきますよ(笑)。ところで、インド株でも、こういう状況があるのでしょうか?
高橋 これは推測でしかありませんけど、たぶんそうでしょうね。以前、外資系企業の工場で労働争議が起こったお話をしましたよね(編集部注:第7回「インドの労働争議は経済発展に影響しませんか−その1−」をご覧下さい)。あの時、チダム・バラン蔵相は、インドの個人投資家に対して「あまり楽観的に株式投資をしないように」と呼びかけました。ところが、その後、外国人投資家の買いが続いて、相場は上昇しました。すると蔵相は、「株式ファンドへの投資なら大丈夫」というような趣旨の発言をしています。おかげで、インドの個人資金が株式ファンドにどんどん流入しています。その後も、本格的に売り崩すような動きは出ていません。本格的に崩れるまでは売らない外国人投資家がいることを考えれば、この状況も理解しやすいのではないでしょうか。しかも、それが買いそびれた国内投資家たちをさらに呼び込んでいるのです。
よく個人投資家は機関投資家にはかなわないって言いますが、機関投資家は、プットの派生商品と主要な現物株をもって、準備万端で下落に備えられるから強いのですね。
高橋 でも、個人投資家は、自分自身のお金を投資するわけですから、「今だ」と思った時にだけ、投資すればいいという絶対的な強みがあります。それに対して、機関投資家には、お客様のおカネをお預かりしている責任上、良い相場に乗れなかった場合など申し訳が立たない状況を避けたいと考えるものなのです。そのため常時、相場を張りに行かなければならないという辛さもあるのです。
いつも思うのですが、プレッシャーとストレスの多い大変なお仕事ですよね。何だかしんみりしちゃいますね。
高橋 まあまあ、明るくいきましょう。そういえば、今週も切れ味鋭いギャグらしいギャグがないじゃないですか(笑)。
さっきスベってしまったから、今週はもう止めておきます。下手をすると「イカはいかが?」レベルのギャグを言っちゃいそうだし…。
高橋 それ、寒すぎ…(笑)。じゃ、また来週に期待するってことで、今週はこの辺で終わりにしておきましょう。


>>次週へ続く

「成功するインド株著者 高橋正樹 氏 特別インタビュー」 記事一覧
  第1回 インド株を買うことはできるのですか ?
  第2回 インド株って何 ?
  第3回 気になるインドとパキスタンの関係はどうですか ?
  第4回 超大国成長市場、インドと中国‐‐‐投資先としての魅力を教えて下さい。
  第5回 「カースト」がインドの経済発展を阻害しませんか ?
  第6回 インドの通貨制度について教えて下さい。
  第7回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その1−
  第8回 インドの労働争議は経済発展に影響しませんか ? −その2−
  第9回 インドの銀行株について教えて下さい。
  第10回 インド株ADR(米国預託証券)の投資のコツを教えて下さい。
  第11回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その1−
  第12回 インド株と中国株はどちらがお買い得?---インドと中国の株価形成の違い −その2−
第13回 金融派生商品(デリバティブ)の使われ方
  第14回 『超大国の成長市場』の株価判断
  第15回 「イメージ・トライアングル」の使い方
  第16回 「銘柄の投資価値」と「市場の期待」をイメージする
  第17回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その1−
  第18回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その2−
  第19回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その3−
  第20回 「超大国の成長市場」のテクニカル分析 −その4−
著者近影 著者PROFILE
高橋正樹 たかはし・まさき
現職は「岡三証券・アジア情報館・シニアストラテジスト」。
元:アイザワ証券投資リサーチセンター・アジア担当ストラテジスト(本書執筆時)。
1963年生まれ。
日系投信会社、米系投資顧問会社を経て、2005年10月より現職。
ファンドマネージャー時代の全米運用パフォーマンスランキングは、2002〜2003年の2年間でアジア株部門が100社中35位、インド株部門24位(2003年のみでは12位)。この成績で注目を集め、日本では数少ないインド株投資経験者としても知られる。インド証券取引所の招きで精力的にインドの企業訪問をするなど、インドの最新情報にもくわしい。
国際公認投資アナリスト
日本証券アナリスト協会検定会員、検定テクニカルアナリスト


書影
書籍DATA
The Secret Of Success For The Indian Equity Investment
成功するインド株
出遅れない・失敗しない投資のための基礎知識
高橋 正樹 著
定価 1,575円
判型:四六判/並製
ページ数:192ページ
初版年月日:2005年08月23日
ISBN:4-7572-1141-4
 
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