博士 加圧トレーニングについてですが、僕はその効果に物凄く自信を持っています。ただ、うち(オフィス北野)の社長なんかは僕の本を読んで言うわけですよ。「なんで水道橋に筋肉がそんなに必要なの?」って。
唐沢 仕事でも別に過剰な筋肉は必要ないですもんね。
博士 加圧が誤解されやすいのは、まさにそこです。 アスリート専門のように思われがちなんですが、本の中でも書いたように、加圧トレーニングをしている人の多くは女性です。つまり、短時間で筋力アップできるということより、成長ホルモンが出ることで、 アンチエイジングやダイエットに有効という点を重要視しているんです。それに老齢の方でも、軽い負荷なので関節や筋肉を痛めたりしない。血流を制限することにより、毛細血管や末端細胞を新たに作ることで、脳の疾病、身体の麻痺などの リハビリに効果を発揮するという点にこそ、このトレーニングの特長、未来性があります。
唐沢 なるほど。確かにリハビリの方法としてはかなり画期的だと思います。そういう真っ当な利用目的があるのならいいんだけど、恐ろしいのは「筋肉マニア」と呼ばれる人種で。彼らは効果があるとわかったら、いくら警告しても絶対に無謀なことをやっちゃうじゃないですか。 ボディビルダーが、まさにその典型で、一部には悲惨な死に方をする人もいますからね。
博士 マッスル北村さんも亡くなられましたね。以前『 果てなき渇望 ボディビルに憑かれた人々』(増田晶文著)とという本を読みましたが、見ている方は、筋肉マンというと何かコミカルに感じるんですが、当の本人たちは一種の宗教色を帯びるほど入り込み方は壮絶ですよね。
唐沢 たとえば身体から水を抜くことで筋肉の線がシャープに出ると聞くと、水を抜く薬を山ほど飲んだりね。あげくの果てに細胞が水を排出しきってしまい、その排出された水が肺に行って溺れ死ぬという悲惨な事故も起こっています。
博士 それに比べて、加圧トレーニングは正しいやり方さえすればまず安全だし、何より、その場で効果が目に見えて分かるのがすごい。一度でも体験したら、その効果を実感されると思います。
唐沢 でもホント、 健康法を紹介する人ってそれにどっぷりハマっている人とか、信じ込んでいる人とかがほとんどなので、博士さんのように冷静なスタンスで健康本を書く人はすごく貴重だと思います。意外にも怪しげでない。何よりネタのためにここまでするのは、お笑いの人しか出来ないですよ。僕はすべての健康法はSMのMだと思っていますが、その意味では博士さんは壮大なMの人ですね(笑)。
博士 ドMを自認していますから(笑)。僕がこの本の中で繰り返し書いていますが、結局、死というタイムリミットは公平にすべての人にやってくるもの。そう考えるとなにをやったってダメ、無駄だということかもしれない。だからこそ、僕は健康法という延命装置の悪あがきを、有限の人生の趣味として楽しめているわけで……。
唐沢 そうですね。ホントに健康になるっていうのは、所詮、趣味ですから。それこそ博士さんは好奇心でやっているからいいのですが、体はキレイじゃなきゃいけないとか、健康にならなくちゃいけないんだという強迫観念的に健康法をやっている人が最近あまりに多すぎる。
博士 そうなんです。そこには、俺は"壁"があると思ってます。つまり、"健康バカ""筋肉バカ"と言われ、"やりすぎ"と思われるような"境界線"が。そして、その領域に踏み込んでこそ、"異常"であり、新たに本を書くなら、そこを乗り越えなければならないという使命もあるんです。その姿を読者に「バカだな〜」と楽しんでもらえればいいんだけど、正直、突き進みすぎると自分でも行き先すらわからなくなる(笑)。
唐沢 そんなもの人類の使命でもなければ、人生の目的でもないですからねぇ(笑)。結局のところ、健康になって何をしたらいいのかってことが大切なんですよ。だけど、人間って往々にして手段と目的がこんがらがってきて、やっているうちに健康になること自体が目的になりがちじゃないですか。健康になっただけではそんなによいことばかりではないのに(笑)。
博士 確かにそれはいえますね。
唐沢 むしろ健康になるために快楽を抑えようとして、食の快楽、 セックスの快楽、その他いろんな快楽をどんどんなくしてしまうのは非常にバカバカしい。
博士 逆に生きる楽しみをなくしているのではないかって。
唐沢 そうそう。博士さんにはこれからもいろんな健康法に挑戦して、ぜひ続編を出してもらいたいですね。
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