特集
[連載]お部屋も心もすっきりする 持たない暮らし
著者 金子由紀子さん インタビュー
第5回 心に余裕ができると、本当の幸せに近づく

『持たない暮らし』の著者金子由紀子さんをお招きして、お話を伺う連載も今回で5回目を迎え、いよいよ最終回。「心に余裕ができると、本当の幸せに近づく」と題し、お届けします。過去にしがみつくのではなく、未来に過剰に備えるものでもなく、「今」を生きる自分であるために、皆さんも一緒に考えてみませんか? 100人いれば100通りの『持たない暮らし』があるはずです。それではごゆっくりお楽しみ下さい。

書籍DATA
持たない暮らし
金子由紀子 著
四六判・並製・224ページ
ISBN 4-7572-1321-2
JAN 978-4-7572-1321-0
定価 1,500円
 
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 いくら片づけてもすぐに散らかってしまう、モノだらけの部屋にストレスを感じている・・・そんなあなたのために、お金をかけず、すぐにはじめられて、いつの間にか部屋がキレイになる魔法の習慣をお教えします。

「忙しい」という言葉は人を遠ざける

♀  いよいよこの連載も最終回になりました。最後は『持たない暮らし』の第5章についてお話をお聞かせ下さい。第5章は「持たない暮らしはゆったりするものです」という章のタイトルですが、私が本文のなかで特に印象的だった言葉は「忙しいと言わない!」というものでした。

金子 ビジネス書の編集をしていた時に、ある評論家の先生が、「オレね、できるだけヒマそうにしているのよ。人に『お忙しいでしょう?』と聞かれると、『いやぁ〜全然ヒマよ!』と答えるようにしているのね。そうすると良い話がどんどんやってくる」とおっしゃっていました。それを聞いて「カッコイイなぁ〜!」と思って。こんなに忙しい毎日を送っていて、セミナーを開けば、一日で相当なギャラを稼ぐ方がそんなふうに気負わずにおっしゃるのって、すごいでしょう。私みたいな小物が「忙しい」なんて、おこがましいなと(笑)及ばずながら、私も真似していきたいなと考えるようになりました。こういう方は心に余裕があるから、悠然としていて、さらに大物に見えるし、素敵だなって思います。

♂  とてもよくわかります。「忙しい」とか「バタバタしていて」などと言い訳をすると、いつもバタバタしているような気になりますしね。個人的な意見で恐縮ですが「いやぁ、ぼちぼちでんなぁ」といったような関西弁のことばや会話術は素晴らしいと思っています。

金子 そうですねぇ。その言葉のやりとりの背景には、人の感情の機微を理解し尽くした文化的土壌があるのかもしれません。

♂  受け入れる側にとっては心の余裕が必要ですね。話しかけやすい人と気難しく気位が高そうに見えて、他人を遠ざける人を比べると、そのあたりに大きな差がありそうです。

金子 そうそう、まず人を拒絶しないことが大切ですね。「忙しい」という言葉だけで、人を追い返してしまいそうでしょ。とても困っていたとしても、「忙しそうだな、やっぱりやめておこう」と遠慮してしまいますよね。相手がいま相談したいことがあるのに、話を聞くことすらできずにいたら、私はその人に悪いと思ってしまいます。よく、お部屋が散らかっているから、ウチに上がってもらえないって言う人がいますよね。散らかっていてもね、今では平気で人に上がってもらいます。友達が家族とケンカして、夜中に突然駆け込んでくることもあります…(笑)

♀  金子さんのお宅は駆け込み寺ですか?(笑)

金子 たとえ部屋のなかが散らかっていても、「まぁ、入って、入って」というようにしています。相手から見れば、そういう時って、人の家が散らかっていようがいまいが、そんなことは気にならないものですよ。自分のことで心がいっぱいで、他人の家どころではないでしょう。そんな時は話を聞いてあげないと、その人もそのまま家に帰れないし。それに、自分が同じようになった時に、助けてもらえるかもしれないし…(笑)

♀  そうですね。立場が逆転するかもしれないし、人生いつ何が起きるか…

金子 そうそう、何が起きるか、まったくわからないですからね(笑)

♀  やはり、「持たない暮らし」は「心がゆったりする」という効果があるということが、一番伝えたいところですか?

金子 そうですね。ゆったりしている人は、いくらモノを持っていても、散らかっていても良いと思います。

♂  心がイライラしない状態にあるというだけで、それはとても幸せなことですね。

金子 それが一番の幸せかもしれません。子供の頃、とても不思議に思っていたことを少しお話してもいいですか? 電車に乗って、車中を眺めていると「おばちゃんって、どうしてこういう顔しているのだろう?」って、いつも思っていたの(笑) 

♀  どういう表情ですか?

金子 その頃の私の目にはいつも年配の方がね、必ず目を閉じて、眉にタテジワを寄せているように映っていたの。私も年取ったら、ああいう顔になっちゃうのかなぁ、人生って、そんなに辛いのかしら…と心配になるほど、苦しそうに見えてね。あんなに辛そうな人生にはならないようにしようと…(笑)その頃から眉間の辺りに力を入れない生き方というのを心がけています(笑)

♀  眉間に皺が寄っている状態では人を遠ざけてしまいそうですね。ここで改めてお伺いしますが、日々の暮らしのなかで、心のバランスや自分自身の気持ちの持ち方と、モノとのつき合い方や片づけはやはり関係しているものですか?

金子 そうですね。私の場合は、ごく平凡な人間なので、それはあると思っています。平凡な人はやっぱり、モノを整えることから始めないと…。とても好きな言葉に、浅草にある仏具屋さんの看板に「心は形を求め、形は心をすすめる」という言葉があります…あ、ご存じですか?

♂  家が浅草に近いので…国会でも以前取り上げられていた記憶があります、あの言葉。

金子 良いコピーだなぁと昔からずっと思っています。人間って、目に見えないものはどうしてもわかりにくいものですよね。目に見えることを正すことによって、目に見えないものを整えていくことができるような気がします。たとえば仏壇に花を生けたり、神棚に榊をあげたりするのは、やっぱり意味のないことではないと思います。家の中を片づけるということも、それと同じことだと思っています。



自分も周りも心地良くなる、風が通る暮らし

♀  実際に金子さんが持たない暮らしを続けていて、一番変わったこと、一番良かったことというのは、そういう精神的なことでしょうか?

金子 そうですね。「忙しい」って言わないようにしようと考える人間になりました。以前、「自分は忙しい、かわいそう」って思っていた時は、誰彼かまわず「忙しくて」と平気で言っていたよう気がします。でもそれって、いま考えてみると、それはとても下品なことかなって、思います。そんなに儲かってもいないくせに(笑)

♀  「自分がかわいそうだ、こんなに頑張っているのに」というように自己憐憫の状態にあると、やっぱり仕事もうまくいかないような気もしますが…。

金子 あぁ、そうかもしれないですね。フォクシーのオーナー兼デザイナーである前田義子さんの本を読んだら、"すべては自分の責任で、自分で決断できて、自分で責任を持てると思えば、何にも悩みなんかない"といったことが書いてあって。ホントにそうだなあと思います。なんて素晴らしいことばでしょう。

♂  大切なのは自己責任ですね。何でも上手くいかない、思い通りにならないことを会社や他人のせいにする。だからイライラするのでしょうね。自分の所属しているところ、たとえば業界、地域、組織、学校などの悪口を居丈高に言う人を見かけますが、それは結局、何のプラスにもなりません。自分を汚すだけだということに気が付かない状態にあるのでしょう。自分の感情のバランスを整えずに、自分を過保護な状態に置き続けていると、たぶん前田さんの言葉は理解できないだろうなぁと思います。

金子 そうですよね。すべて自分で選べるんだ、自分で決められるんだと思えれば、何も恐くなくなります。

♀  結局、モノというものを通して、自分とどうつき合うかを知ることで、いろいろな意味でのゆとり、時間のゆとりにも、精神的なゆとりにもつながるような気がします。

金子 そうですね。自分がかわいそうになっちゃうとお金も貯まらないという話もありましたね…。でも私、いまだに貯まっていませんし…(笑) でも貯まらなくても平気になりますよ。お金があってもなくても、今幸せだから。ここから生活のレベルが落ちても、問題なく暮らしていけるし、上がったら上がったで、ハッピーという感じです(笑)

♂  会社のキャッシュフローと似ていますね。お金が回っていれば、無理やり内部留保にまわして貯めこんでいかなくても、企業は続きます。キャッシュを回せるということが大切ですよね。

金子 そうそう。回せる自分になるから潰れない。たぶん、いろいろなことの「通り」がよくなるということかな、言い換えれば、風が通る暮らし…とでも言いましょうか。

♂  良いフレーズですね。我々も風が通る暮らしを目指しましょう。すきま風じゃなくて(爆笑)

金子 あはは、それは面白い(笑) モノが少なくなれば、たぶん持て余していた「自分」が管理できるようになります。自分の五感で理解できるし、全体を見渡せるので、「なくなっちゃった! 誰? どこへやったの?」なんて、人のせいにすることがなくなりますし。これだけモノが無いのに、それでもモノを失くしたら、それは森の妖精が持っていったのかもしれない…って思えるようになりますよ(笑)

一同 (笑)



余分なモノを持たないのは、自分を好きになるため

♀  いよいよこの連載も最後に近づきました。金子さん、片づけが苦手な人や、忙しい日々を送っている人に何かメッセージをお願いします。

金子 本当に忙しくて、心身耗弱になるくらいに忙しい人もいらっしゃると思います。会社に酷使されていて、ノルマ、納期に追われる毎日…。そういう人は、まず綺麗なもの、美しいと感じるものを観たり、手間を掛けたちゃんとしたお料理を食べたり、それでもだめなら、せめてお風呂に入ってお布団で寝るといったことをしないと、生活に変化を起こせないと思います。まず単純なことでいいから、自分を大切にすることを始めてみてほしいですね。「掃除をすれば、宝くじが当たる」と俄かには思えないので…(笑)

♂  「忙しい、忙しい」などと言っていて、ただ家に帰るのが面倒で会社に泊まって、お風呂にも入らず、汚い格好をしていると、幸運の女神さまも微笑んでくれません。忙しいという言葉は「心を亡くす」と書きますし、心がこもっていない状態で納期に間に合わせても、結局その仕事は結局上手くいかないような気がします。

金子 まあこういう職業以外でも本当に納期に追われて、そう言う状態になってしまうこともありますよね、人間だから。でも日常的に「忙しいが口癖」で、なりふり構わずなんて人は、概してきちんと食べてないように思います。最近いろいろな人に話を聞くと、朝ご飯を食べないのが当たり前になっているじゃないですか。あれはまずいと思いますよ。

♀  普通のことを普通にできない、美味しいものをゆっくり食べたり、身だしなみを整えたり、そういうことができていない人は、一度自分自身の生活をきちんとしたリズムに戻してみることが大切ですね。

金子 そうですね。人の暮らしは総合的にみるとやはりバランスが大切だと思います。いつも掃除ばかりしていて、家の中はピカピカで、ホコリひとつ落ちてなくても、子供に尖った声で叱りつけるような人もいます。そういうタイプの人は、あくまでも推測ですが、台所が汚くなるからといって、案外ご飯を作らずにいるのかもしれません。本当にその人自身やその家族は気持ち良く暮らせているのかと考えてみると、「うーん、どうなんだろう」と思ってしまう時もあります。

♀  台所が汚れるのがいやだから、料理をしないという話、私もけっこう耳にします。でもそれは私にはとても違和感があります。本末転倒ですよね? 片づけが生活の目的になってしまって。

金子 そう、それが目的じゃない。大多数の方にはわかっているはずのことだと思うのですが…。

♀  ここで金子さんにお聞きしますが、片づけが自己目的化するとそういう暮らしは長く続かないような気がしますが、どうでしょう? 掃除をすると運が良くなるという本にしても、ひとつの婉曲表現として言っているだけで、日々の暮らしの中で、ひとつひとつの要素を大切にしていけば運気も良くなる、という話だと私は理解しています。その部分だけが簡略化され、クローズアップされると、単品ダイエットと同じで体のバランスが崩れてしまいますよね。

金子 片づけにしても、すっきりとした暮らしのためには大切なことですが、それだけではないというバランス感覚が必要でしょうね。何のために片づけるかという目的を素直に考えると、自分を好きになるために暮らしを整える、それが大切なことだと思います。

♀  持たないことだけが大切なのではないということですね。

金子 その通りです。今の時点で自分を大好きだったら、もうそれでOK! 問題解決(笑)

♂  人間とは弱いもので、いくら自分は自分のことを大好きでも、他人から愛されなかったら、それはそれで不幸ですよね。人は誰か他の人から言葉にして褒めてもらわないと自分を好きになれないのかもしれませんし。

金子 他人からも愛されて、自分自身も好きで日々の暮らしを大切にしているというのがベストですね。そうなりたいと思ったら、とりあえずお部屋を片づけてみましょうか。あまり気負わずにね。

♀  そろそろお時間がきました。金子さん、今回はロングインタビューにお付き合いいただきありがとうございます。ほんとうに勉強になりました。気負わず、まずデスクまわりから片づけてみます。

♂  「今」を大切にした温かい暮らしのために、僕はまず睡眠時間の確保から始めてみます。後片付けはそれからということで…(笑)

金子 よく眠ることも大切なことですからね(笑)こちらこそ、とても楽しくお話ができました。ありがとうございます。






「路地裏の経営学」著者町田秀樹氏インタビュー 記事一覧
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第5回 心に余裕ができると、本当の幸せに近づく
PROFILE
著者近影
金子由紀子:1965年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスに。
 暮らし方から健康、旅行、教育まで、幅広い分野で取材・執筆に携わる。総合情報サイトAll About japan「シンプルライフ」ガイド。10年に及ぶひとり暮らしの経験の中で、「少ないモノでゆったり暮らす」ことの心地良さに目覚める。二児の母となった現在もシンプルライフを実践し、等身大の生活術が共感を呼んでいる。著書に『毎日をちょっぴりていねいに暮らす43のヒント』『ちょこっと和のある暮らしが なんだかとてもワクワクする!』(共にすばる舎)『暮らしのさじ加減』(リヨン社)等、監修に『スッキリ朝とゆったり夜』(PHP研究所)がある。