● モノが溢れるにもタイプがある
♀ 本の冒頭(14〜16ページ)にはチェックリストがあって、自分のタイプを知ることができました。早速ですが金子さんは、A〜Fのうちどのタイプなのですか?
金子 実は自分ではチェックしていないんですけど、本来はB(お忙しOL)タイプだと思います。今はそれほど外へ出歩いたりせず、子育てのために家にいることが多い状態なので、少し落ち着いています。でももしフルタイムで会社員をしていたら、きっと自分はこれだろうなという感じです。
♀ 私の場合は、昭和の母タイプ(E)でした。自覚症状はあるんですけど、まさに捨てられないタイプで…。特に、家には紙袋が溢れています。あと私の周りには、典型的なお買い物の女王タイプの人がいました。
金子 やっぱり、人によって分かれますよね。
♀ タイプがあって、人それぞれ違うというのはやはり興味深いですね。このタイプ分け(分類)は、どのように出来上がっていったのでしょうか?
金子 これは周りにいる人を参考にしました。だから現実にモデルがいます。特にお買い物の女王のモデルには、このタイプの最たる方がいて、モノをたくさん買ってはたくさん失くしたり捨てたりするそうです。それでも家の中にモノがいっぱいあふれているというタイプです。センスはとっても良い方ですよ。たとえばクリスマスシーズンになると、窓辺に素敵なディスプレイを施されています。でもその一角以外はゴミ溜めで、「なんで!?」って(笑)ほんと、人間って不思議だなあと思うんですよねぇ。
♀ 身につまされるお話です…。(苦笑)
金子 中には、自分ではあまり気にしていない方もいらっしゃると思うんです。片づいていないのが常の状態で、自分ではそれほどモノが多いと思っていないけれど、周りの人が困っているという場合もありますよね。
♀ そうですよね。一人暮らしなら自分で耐えればいいけれど、家族と住んでいるとまた違っていたりしますよね。
♂ 僕の場合、女房がモノを持ち過ぎていても、絶対「突っ込まない」というのが我が家の家庭円満の秘訣だと思っています。家内は仕事で和裁を教えています。その関係で、どうしても家の中が和洋混在の生活になり、特に着るものが多くなりがちです。ついには衣裳に占拠される部屋まで…。それでも口癖は「着るものが無いのよ」なんです(爆笑)
金子 なるほどー。
♂ 結婚当初、カミさんは「家に仕事を持ち込まない!」と宣言していたのですが、忙しくなるにつれ、そうも言っていられなくなって…。舞台衣装などの急な発注やお直しが入ると仕立物を持ち帰って、徹夜で仕上げることも増えました。繁忙期には部屋じゅうに端切れとか使いかけの絹糸が落ちていることもしばしばで…。怖いのは、針が落ちている場合です(笑)
♀ 罠かも?(笑)
金子 仕掛けが(笑)
♂ そ、そ、そんなぁ〜。
♀ でも奥さんには突っ込まないという(笑)
♂ 一切突っ込みません。それが愛妻家の基本です。ただ、度を越してぐちゃぐちゃになっていると、「片づけても良い?」というふうに聞くようにはしています。大体断られますが…。
金子 そうしないと大変なことに(笑)
♂ ええ、もうストレスが溜まりまくってしまって…そりゃあ、もう胃が痛い(笑)
● 「吾唯足知=われただ足るを知る」
♂ 金子さん自身が持たない暮らしを始めたのって、いつ頃からですか?
金子 私、元々ミニマムという考え方がすごく好きだったんですよ。子供の時に好きだった遊びが、ひと筆書き。
一同 (笑)
金子 暗いんですけどね(笑)京都龍安寺石庭の蹲(つくば)いで「吾唯足知(われただ足るを知る)」と書かれているのがありますよね、円形の真ん中が“口”になっている。中学の時に社会の資料集でそれを見て、すごく感動して。「なんて無駄がないんだろう!」とうっとりして眺めていたんです。
♀ 特別に意識もせず、すんなりと『持たない暮らし』を始めていたということでしょうか。
金子 そのつもりだったんですけど、そうは言っても若い頃は「これもやりたい、あれもやりたい」と、 “多趣味型”みたいに、いろんなものを集めて溜め込んでは捨てての繰り返しでした。でも、結婚すると一挙に生活が煩雑になりますよね。さらに子供が産まれてからモノが倍増して、どうにかしないといやだなと思って、ある日意を決してモノを捨て始めたのが始まりです。
♀ 結婚、出産が大きな転機、きっかけだったのですね。
金子 それまでも、年に一度くらいずつバッと捨てるということは繰り返していました。それでも毎年捨てるものが出るなと思っていて。ある時、「もうこれ以上捨てるものがない!」っていうくらい捨てたんです。フリマに出したりもして、すごくスッキリしたつもりだったのですが、やっぱり次の年になったらまた捨てるものが出る。子供がいるとどうしてもそういうものが出てしまうとはいえ、捨てるものがあるというのは、自分の買い方とか入手方法がまだまだしっかりしてないのかな?と思うところがあって。その辺りからですね、「ストックは持たない」ということをしっかりと意識して徹底し始めたのは。
● 必要な分量は人それぞれ
♀ モノが増えた暮らしで一番問題になるのは、使いきれないというか、モノを生かしきれないということでしたよね?
金子 そうそう。モノの量がさほどでなくても、好きじゃないものが周りにいっぱいあるのだとしたら、スッキリしないだろうなと思います。
♀ 単にモノが部屋にいっぱいあるという物理的な問題じゃなくて。
金子 精神的な問題ですね。どんなにゴチャゴチャしていても元気いっぱいな人もいて、そういう人は全然問題ないと思うんですよ。そのまま幸せに暮らして下さい(笑)でも、たくさんものを持っていても、全部大事にしている人ってすごく尊敬します。そして私が一番素晴らしいと思うのは、ものをあまり持たないで、自分も周りの人も楽しく暮らしているような人。そういう人はいつもすごいなあと思います。
♀ 精神的なところに焦点があるということですよね。
金子 そうです。だから、物理的な量や数というのはあまり関係ないと思います。
♀ 個人個人に合っているか、合っていないかということでしょうか。
金子 よくお片づけの本で、パジャマは何組でシーツは何枚あればいいとかありますけど、人によって、洗濯の頻度とか住んでいる環境による乾き具合とか、いろんな条件が違ってくるし。「何は何個あるといい」というのは、誰にも言えないと思うんですよ。目安にはなりますけどね。でもそういうことではなくて、「自分の暮らしを知る」ことがまずあって、それからでないと“持たない暮らし”っていうのは成り立たないんじゃないかなと思います。
♀ いつも人が出入りしているような家と、年に数回ぐらいしかお客さんが来ないような家では、食器の揃え方からすべて変わってきますよね。
金子 そうですね。うちも家族は誰もスリッパを履かないので、スリッパはなければないで良いんですけど、たとえばお客さんが冷え性で足が冷える方だったら、やっぱりスリッパを用意しないと悪いじゃないですか。そのためだけにスリッパを持っているんですよ、チョビッとだけ(笑)だから、自分の暮らしだけで完結するものでもないと思います。
♂ 先日ある女優さんとお会いして、お話を伺っていると見事なまでに「モノを持たない暮らし」を実践されているようです。そばで毎日見ているマネジャーさんも「それは間違いない」とおっしゃっていましたし…。スタイリッシュで素敵な女優さんですが、私生活では靴や衣装もほんとうに必要最少限で、たとえば「靴を1足買ったら、必ず2足捨てるわ」といったように徹底しているそうです。買ったら躊躇なく古いものを捨てて、自分のキャパシティに合わせた暮らしをしていると…。
♀ だとすると、逆に、大事にしているものを捨てたくないから買わないというふうにもなりますよね。
金子 うん、それもあると思う。というか、「これがあるから買わない」というふうに思えるのでしょうね、たぶん。
● 身の回りのモノは自分を写す鏡
♀ モノだらけになる一番の原因はどういうことだと思いますか?
金子 先ほどの女優さんのようなタイプの方は、本当にご自分をよくご存知なのだと思います。自分をよく知っている人は、自分に必要なものとそうでないものを、瞬時に選別できる。ところが普通はそれがなかなか出来ないものですよね。逆説的だけれども、今あるものを見直すことによって、なりたい自分になっていくのではないかなって。私はそっちのほうですね。
♂ 今自分の持っているものを見て、自分はこういうタイプなのだと知ることが大切なのですね?
金子 そう。それこそ、自分の周りにあるものは自分を写す鏡ってよく言いますよね。本棚は私の脳みそで、クローゼットは私の外見であって、冷蔵庫の中身は私の食生活(笑)
♀ 我が身を振り返ると…、もう泣きそうです(苦笑)
金子 ということを考えると、その人がいない部屋にボンと送り込まれたら、どういう人かだいたい分かるじゃないですか。
一同 (笑)
金子 だから他人の目で自分の部屋を見渡して、もう一回編集し直す。なりたい自分があるとすれば、それに近づけるものに、内容物を編集する。そこに自分をはめていくっていうやり方じゃないかな、普通は。でも、“捨てられない体質”とかはまったくないと思いますよ。
♀ それは励まされますね。
金子 タイプ分けに無気力なタイプというのがありますが、そういう状態は誰でもあるじゃないですか。それは捨てられない人というのではなくて、単に捨てられない状態にあるだけだと思いますよ。
♀ 本当に疲れている時って、散らかっている家にいると、逆に守られているような気がすることも(笑)
金子 なんとまあ、自虐的な(笑)
♀ ゴミだらけだけど、居心地が良いという変な錯覚が。
金子 それが本当に心地良いのだったら、まったく問題ないと思います(笑)
♀ でもある日気がつくと呆然とするんですよね…。
一同 (爆笑)
つづく
|