特集
[連載]お部屋も心もすっきりする 持たない暮らし
著者 金子由紀子さん インタビュー
第2回 知恵と工夫があれば、モノはそんなにいらない

著者の金子由紀子さんを囲んでお話を伺うWeb連載の2回目。今回は持たない暮らし=ストイックで無味乾燥な暮らしではなく、モノと気持ちよく、長く付き合っていく…そんな秘訣を教えていただきました。暮らしがシンプルになると、こころがゆったりしてくる。そんな『持たない暮らし』に反響続々! 今週も青山ブックセンター自由が丘店では総合第1位。店頭で素敵なディスプレイを施し、陳列していただいています。

書籍DATA
持たない暮らし
金子由紀子 著
四六判・並製・224ページ
ISBN 4-7572-1321-2
JAN 978-4-7572-1321-0
定価 1,500円
 
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 いくら片づけてもすぐに散らかってしまう、モノだらけの部屋にストレスを感じている・・・そんなあなたのために、お金をかけず、すぐにはじめられて、いつの間にか部屋がキレイになる魔法の習慣をお教えします。

メリハリをつけるのが買い物のコツ

♀  さて、金子さん。「持たない暮らし」の第2章では、すっきりした生活を楽しく続けるためのヒントが具体的に紹介されています。そこでお聞きしたいのですが、金子さんは普段、何か特別な信条のようなものに則して行動していらっしゃるのですか?

金子 そうですね、ひとつは「なるべく買わないように」と日頃から思っているということでしょうか。何かがなくなっても、新しいモノをなかなか買えません。たとえば、服が傷んで捨てなきゃいけなくなって、次の服をなかなか買えない。でも、買えなくてもあんまり困らないものですよ。いつも同じものを着ているけど、どうせ人はなんとも思っていないだろうし。私、人の服にもあまり関心を払わないので、服が変わっちゃうとその人がわからないなんてことが…(笑)

♂  老若男女を問わず、どこにでも他人の服を必要以上に気にする人はいますよねぇ。でも他人を気にし過ぎると、我を忘れてしまい、むしろ物欲が暴走しそうな気がします(笑) 僕も『持たない暮らし』を読んでから、無ければ無いで何とかしようと思うようになりました。まず「必要だ、すぐに買わなくちゃ」と思ってから、それを3日間放置する。そう考えると本当に必要なものって、案外少なくても済むものなのかもしれません。

金子 そうですね。なくても困らないということが頭にあるから、ゆっくりモノ探しをできるのかな。そうすると、気に入ったものに出会える確率も高くなる。子育て中、まともなバッグを持っていなくて、そろそろ買わなくちゃいけないなと思っていたのです。でも、小さい子供がいるからお買い物にもなかなか出掛ける機会がない。それでずっとネットショップとかで探していて、「このバッグ良いな」と思うのが、いつも同じブランドであることに気付いたのです。そこで、そのブランドに私が好きな形が多いのかなと思って、実際に見に行ったら、すぐに気に入っちゃって。

♀  それぐらい気に入ったものを見つけられるって幸せというか、なかなかないことですよね。

金子 そう、今ネットとかあるから、情報収集も格段に便利になりましたよね。探し物をしているうちに、自分がどういうものに興味や関心がそそられるのか、自分で気付くこともあると思うのです。いろいろ見て歩かなくてもかなりの情報は集められます。もちろん実際触ってみなくてはわからないところもありますが…。

♂  検索エンジンとe-コマースの進化、そしてインターネット上で商品データベースがどんどん整備されて、本当にほしいものを出来るだけ安くとか、探し物をするときのさまざまな思いに応えてくれるようになりましたね。一方では検索している間、自分と向き合う時間も生まれるので、じっくりと欲しいもの探しが出来るような気がします。たっぷり時間を掛けた方が良い物に出会える確率も高くなりそうですし。

金子 そうそう。ゆっくりあわてずに何年がかりで気に入ったものを見つけるのも良いものです。そんなに何十万とかするものを買うわけでもないので、私の場合。

♀  そう考えるとモノが増えるのを防いでくれそうですね。安いからとか言ってなんとなく買ってしまって、やたらバッグばかりが増えていく…。実は私のことですが(笑)

金子 そうですね、何個以上増やさないと決めていると、どうしても選ぶ目が厳しくなりますね。本当にいつも使えるものをゆっくり探せることがなかなかなくて、いつも必要に迫られて買っていると、手近にあるもので買っちゃえ、となりますよね。本当に困った時は人に借りて、あとバッグが好きだったら、バッグは何個持っても良いっていうふうに許しちゃってもイイと思う。その代わりスカートは3枚だけとか、そういうふうにするとメリハリもつくと思いますよ。

♀  本の中でも、箸置きとか豆皿は許しているとありましたよね。

金子 場所取らないし(笑) お皿とかカップとか、なにかといただく機会も多いですよね。要らないとはいえませんしね。もうこれ以上必要ないと思いつつ、それでもまた貰ったり、ついついカワイイとか安かったからと言って、買ってしまったり…。観光地行ったり、器屋さんに行ったりすると、「なにか買わなくちゃ」と思ってしまいそうですものね。



よく使うものはだいたい決まっている

♂  箸置きで思い出しましたが、ちなみにウチのかみさんは、箸置きを加工して帯留めにしていますよ。

金子  へぇ〜、それはおしゃれ。箸置きっていろいろありますものね、和のものっていろいろ転用できるから。

♀  和のものは生活のいろいろなシーンで転用可能なのですね。日本人の生活の知恵から生まれ、歴史の中で淘汰されてきたものだから、やっぱり毎日の暮らしにフィットしやすいでしょうね。

金子 和のものってモノや仕掛けが単純なので、一個のものを何通りにも使える。たとえば紐とか風呂敷ならば、結び方や縛り方で、単純なものをあらゆる形に変幻自在にできる。手に技術があれば、たくさんのものはいらないのです。自分の中に技術をインストールしちゃうと、すごく楽ですよ。

♂  風呂敷は便利ですよね。僕は本来不器用で、モノを上手に使いこなせないタイプだと強く自覚しています(笑) ところが、ふとしたきっかけで風呂敷を器用に使いこなす所作がとても優雅で美しく思えて…、その時、絶対風呂敷の包み方をマスターしようと思いました(笑) 実際やってみると結構技術がいるけれど、徐々に慣れるものですね。使いこなせるようになると一枚何役もこなせる風呂敷の便利さがよく理解できたような気がしています。

金子 そうですね。逆に、たくさんのものがないと暮らせないというのは、いかに自分の手の中から伝統とか技術が失われているかという証のような気もします。だって、包丁がある程度使えれば、アイディア商品によくある、なんとか刻み機とかいらないのでは?と思います。

♀  便利に見える道具って錯覚を起こしますよね。これがあれば、料理が上手になるかもって(笑)

金子 学生の時、日本料理屋さんでアルバイトしたことがあります。板前さんがすごい包丁をかっこよく使うので、あんなふうになりたいなと思って、「包丁って何をそろえれば良いのでしょうか」と聞いたら、「うーん、牛刀一本あれば充分じゃない? だいたいの作業はできるから。そんなでっかい魚、家庭じゃさばかないでしょ」って言われて。たしかに、サバより大きいものは自宅ではさばかないな、と。それ以来、包丁は一本で良いと思うようになりました。

♀  そうか一本で済むのですね(笑) 包丁をきちっと研いで、丁寧に手入れをすることが大事だということですか?

金子 そうそう。よく通販とかで10本くらいセットになったものがありますけど、そんなに使わないって(笑)

♂  今ならキャベツの千切りカッターと何とかナイフが付いて、1万円でのご奉仕です!という口上にクラクラしている場合じゃないですね(笑)

♀  考えてみるといつも使っている道具やモノって、結局使いやすさや心地よさがあるから使うのでしょうね。

金子 服もそうじゃないですか? いっつも、気に入った同じもの着たり(笑) ココ・シャネルも晩年はホテルリッツに暮らして、スーツ2着しか持っていなかったとか言いますでしょう。洋服もそうですし、台所もそうですし、そういう意味で言うと、モノは自分の人生を作品に仕上げていく要素みたいなところがあるのかなと感じています。



家族と同居している場合は…

♀  家族と住んでいても、暮らしをシンプルにしていくのは、もちろん良い面が多いわけですよね。

金子 とは思いますけど、やっぱり、家族といっても自分以外は全部他人です(笑) 自分が生んだ子供でも、自分ではないわけだから、すごく難しい。勝手に人のモノを捨てるわけにはいきませんよね。

♀  人と住みながらも自分が持たない暮らしを続けるというよりは、影響されつつ良いほうに近づけていくということでしょうか?

金子 そうですね。やっぱりどれだけお互いに影響し合えるか、どっちの影響力が強いか、ある意味、勝負みたいなところはあると思いますけど(笑)

♂  それこそ自分がやっていることを見て、相手が「自分も減らそうかな」って思ってくれるのが一番なのかもしれませんね。背中で語るとか、高倉健さんのように(笑)

金子 それがベストですね。ただ親御さんの場合は、とても大変ですよ。

♀  実家って不思議なものがいっぱいあるというか。皆の不思議なものが溢れている(苦笑)

金子 不思議なモノって、なぁに? 一度あなたの実家にお邪魔してみたいですね(笑) 

♂  お宅拝見ツアー組んで見に行きましょう! ○○家のヒミツがいま白日の下に!(笑)

♀  そ、そ、それだけはお許しを(涙)

金子 実家の話でいえば、私も最近実家に帰った時、冷蔵庫になんだか汚いショウガがあるなと思って、それをポイっと捨てちゃいました。そのあと自宅に帰ると、すぐに母から電話がかかってきて、「あれ捨てたでしょ!」と。「汚いから捨てちゃった」と言ったら、「あれ2万円もしたのよ!」ですって。クマノイっていう漢方薬だったのです。びっくりして、「だったら、2万円って、書いておいてよー!」って、電話口で母親に叫んでいました。

一同 (爆笑)

金子 でもね、他人のものって、どんなに高価なものでも簡単に捨てられるものですよ(笑) 昔、先輩の引越しを手伝ったことがあって、「引越代がかさむから何でも捨てちゃって、モノを減らそうと思っているのよ」って言うから、「そうですかぁ〜、じゃあ減らしますね!」とボンボン捨てていきました。そしたら、「それはやめてぇー!」って(笑) こっちは“こんなもの持っていたってしょうがない”って思うものでも、本人には大事な物。どうしても捨てられないのなら、いっそ目をつぶって、人に捨ててもらうのが良いと思いますよ。思う存分捨ててもらえます(笑)

♀  それは素晴らしい(笑) 愛用という言葉とはちょっと違うところで、モノには自分の愛着というか、実は意外なことに執着していたり、思い出にしがみついていたり、いろいろな自分自身のこだわりに気付くことになりそうですね。

金子 そうそう、その通りです(笑) 苦労して手に入れたわけでもないのに、自分の手垢がついたっていうだけで、捨てられないものですよ。それが他人に簡単に捨てられると、ムッとするというのがあると思いますよ。

♀  本当は使っていないのに、人に捨てられるとムッとしますよね(笑)

金子 「あれ使おうと思って取っておいたのに」とか言いそうですよね。でも「嘘ばっかり」って突っ込まれる(笑)

♂  それ、我が家の日常会話です(爆笑)

♀  あと、モノが多い同士の夫婦だと大変ですよね、趣味の多い人とか。

金子 いますよねぇ、コレクターのカップルとか(笑)

♀  お互いに相手の趣味のものはいらないと思うんだけど、やっぱり自分のモノは捨てられないのではないでしょうか。

金子 同じ趣味だったら、良いのでしょうけれど。

♂  でも実際、同じ趣味、コレクションがきっかけで惹かれあったコレクターのカップルがいて、端からみると上手くいきそうな気がしますよね。ところが時間が経つにつれ、うまくいかなくなり、別れました。

♀  へぇ、でもそれはなぜですか?

♂  それで不思議に思って、いろいろ話を聞いてみました。いざ暮らし始めると生活空間がどんどん減っていって、食事するスペースにまで、お互いのコレクションが…。それでも譲れないこだわりがぶつかって…。それを聞くとこだわりが強過ぎるのもどうかと思う今日この頃です。

金子 そうか、生活空間の奪い合いね。それは分かる気もします。狭くなればなるほど、そりゃあお互いストレスがたまるでしょう。熾烈な不動産上の闘いなのかもしれないですねぇ!

一同 (笑)



つづく


「路地裏の経営学」著者町田秀樹氏インタビュー 記事一覧
  第1回 なりたい自分に近づくために、自分の持ち物を編集する
第2回 知恵と工夫があれば、モノはそんなにいらない
  第3回 ゴミの少ない人はカッコイイ!?
  第4回 捨てるだけでは、解決しない
  第5回 心に余裕ができると、本当の幸せに近づく
PROFILE
著者近影
金子由紀子:1965年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスに。
 暮らし方から健康、旅行、教育まで、幅広い分野で取材・執筆に携わる。総合情報サイトAll About japan「シンプルライフ」ガイド。10年に及ぶひとり暮らしの経験の中で、「少ないモノでゆったり暮らす」ことの心地良さに目覚める。二児の母となった現在もシンプルライフを実践し、等身大の生活術が共感を呼んでいる。著書に『毎日をちょっぴりていねいに暮らす43のヒント』『ちょこっと和のある暮らしが なんだかとてもワクワクする!』(共にすばる舎)『暮らしのさじ加減』(リヨン社)等、監修に『スッキリ朝とゆったり夜』(PHP研究所)がある。