オルタード・カーボン 特別対談 リチャード・モーガン×田口俊樹
オルタード・カーボン 特別対談 リチャード・モーガン×田口俊樹
 

――『オルタード・カーボン』の成功の理由についてどうお考えですか?

  ベストセラーになる作品は、人間の根源に対する理解や疑問を扱ったものが多いんじゃないかな。人間の存在とか人間の起源とか。どの文化でも神話や伝説は繰り返し語り継がれているだろう。我々は何者なのか? どこから来たのか? どこへ行くのか?

  映画『ブレードランナー』の結末でルトガー・ハウアー扮するレプリカントが死ぬ場面で、刑事(ハリソン・フォード)がこうつぶやく。「結局彼も自分のことを知りたがった。自分は何者なのか。どこから来てどこへ行くのか」。これは人間の根源的な要求なんじゃないかな。だからこの要求に訴えかける作品は読者の心をつかむ。人類の普遍的な問いだからね。『オルタード・カーボン』でもこの問いかけが繰り返されている。登場人物たちは自問自答し続ける。「自分がコピー人間だとしたら、それは本当の自分なのだろうか。肉体と頭脳、どちらに真の自分が宿っているのだろう。クローンで生きながらえる自分と今の自分は同一人物だろうか」ってね。

  こうした人類観に対するこだわりについて、イギリスやアメリカのSFファンから多くの批判が寄せられた。そもそもSFファンの好奇心は機械文明、つまり科学技術に向けられているからね。もちろん僕だって科学技術には結構興味があるほうだけれど、機械文明は単なるタイムマシン以上の可能性を秘めていると思うんだ。個人的には、機械文明の成し得る業、人間に及ぼす影響のほうに好奇心をそそられる。つまり、僕の関心はあくまでも「人類」に向けられていて、科学技術が人間に及ぼす影響に興味がある。ハードSFのファンは科学技術そのものに関心があって、人類の可能性にはあまり興味がないようだけれどね。

――最後に、日本の読者にこれだけは言っておきたいことなどありましたら。SFというと二の足を踏んで読もうとしない人も結構いるので、そんな読者に対しても何か一言。

  『オルタード・カーボン』は「人間ドラマ」なんだ。ミステリーでもあり、ラブストーリーとしても読める。ただ、たまたま未来の出来事を扱っているのでSF作品と呼ばれたりもするけどね。(SF的な要素がなくても十分理解できる話だ)。

  『オルタード・カーボン』(が語りかける意味)から何かを感じ取ってもらえれば嬉しい。たとえばコヴァッチをヒーローとして捉える人もいるだろう。僕個人としては、そうは思わないけれど。コヴァッチは影のある危険な奴だ。とても魅力的な存在であることは間違いないが、特別なヒーローではない。バンクロフトに対する好き嫌いも人それぞれだろう。でも、それでいいんだ。登場人物に感情移入するほど思い入れを持って読んでもらえれば、作家冥利につきるよ。

  基本的には小説が好きだから書いているので、読者の年齢層や性別などは特に意識していないんだ。僕は少しコヴァッチに似たところがあるのか、非常に理想主義的な性質で。小説はあくまでも作り話なのだから、自分の好きな話を好きなように書こう、と決めている。ということで、皆さんが僕の作品を気に入ってくれれば光栄だけど、気に入らなかった場合にはおあいにく様、ご勘弁願いたい。僕の作品に対する意見や批判が出て来た時点で、僕の仕事はようやく完結するんだ。


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