『エリオン国物語』日本語版によせて
アメリカの小さな町に住む作家として、日常生活を送っているわたしには、とても信じがたいことですが、『エリオン国物語』は、わたしが訪れたことのない多くの国々で、わたしが話せない多くの言語に翻訳されています。
「訪れたことのない」という言葉を、そう遠くないうちに訂正できることを望んでいますが、今はひとまず、日本の読者のみなさんに感謝の気持ちをお伝えします。
この本を手にとってくださって、ありがとうございます。
『エリオン国物語』は、もともとは娘たちのためにつくったお話でした。
夜、しんと静まりかえったわが家で、何ヶ月もかけて語り聞かせました。
それは本当に個人的な試みでした。
この本は、高い壁に囲まれた町から一歩も出たことのない女の子、アレクサ・デイリーが主人公の冒険物語です。
アレクサは町の外につづく秘密のトンネルを見つけ、思いもよらなかった複雑な問題に満ちた外の世界を知ります。
この物語はファンタジーであると同時にミステリーでもあります。アレクサのまわりの人々は、実は別の顔を持っていたのです。
アレクサは、だれがいい人間で、だれが悪い人間かをつきとめなくてはなりません。
良質な冒険ものファンタジーに垣根はありません。物語の世界に飛び込みたいと願う人々すべてを受け入れます。
物語に出てくる壁以外に、読者のみなさんがエリオン国を訪れるのをはばむ垣根がないことを、願っています。
はるか遠くに住む友よ、ようこそ! わたしがこの物語を楽しみながら書いたように、みなさんにもこの物語を楽しみながら読んでいただけますように。
パトリック・カーマン
ワシントン州ワラワラの自宅にて
2006年9月14日