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『渋谷区円山町』3月、渋谷Q-AXシネマ他にて全国ロードショー |
永田琴監督の『渋谷区円山町』を観た。
この映画の原作がおかざき真理の同名の人気コミックだということも、出演者が誰かということも、何も知らなかった。ただ永田琴さんという監督をちょっとだけ知っていて、彼女から遠慮がちなお誘いが1行だけ添えられた試写会の招待状が送られてきたのだった。
渋谷区円山町は、ライブハウスや衣装のリース屋に行くとき、たまに通過する場所だ。タクシーの運転手さんには「東急本店からラブホテル街に向かって……」などと説明する。
映画の舞台は、郊外の高校と渋谷の街とラブホテル。
女子高生たちの2つのストーリーがラブホを軸に展開する。
そこにあるのは、先生への恋心やいじめといったものなのだけれど、それがどうラブホと結びつくかは、ここで簡単には説明できない。
でも、確かにこの映画には、少女から大人になりかけのときにだけ許される、危なっかしい一途さがデリケートに描かれている。
それは永田琴さんが30代半ばで、表現者としてはオトナでありながら、まだまだ自分の中に少女たちと共有できる実感をあり余るほど持っているからだろう。
「私だっていつまでも少女だわ……」と言いたい。でも、現代という時の流れのなかでは、私のトシでは、あるいは男性では、こうはいかないだろう。
危うい時代の、危うい場所の、あるような、ないような、暗いような、明るいような、少女が跳躍し、綱渡りする一瞬の時。それをラブホで見事に捕まえた映画。
<付録>私の円山町
40年前のある夜、男2人、女2人の若者(私を含む)は、渋谷でたわいもない夜遊びにふけり、終電を逃してしまった。
私は竹下通りの木造アパートに住んでいたから、歩いて帰れたし、ほかの3人にしても帰宅方法はあったことだろう。
でも、4人はあることを思い付いて、はしゃぎまくった。
道玄坂を登って、円山町の連れ込み宿にみんなで飛び込んだ。
とりあえず男女のカップルになって、それぞれ部屋に案内される。
私たちの部屋の前には白い玉砂利が敷かれていて、その向こうにふすまがある。
私はその白い玉砂利を見て「この三途の川を飛び越えるのね……」と言い、連れの男の子は、うっすらと笑った。
冗談だよね……というつもりでふすまを開けると、そこには堂々と布団が二客敷かれていて、さすがに息を呑んだ。
私が大声で「そちらさん、ど〜お? こっちはすごいよぉ!」と叫ぶと、それを合図に2組は合流して、4人でそれぞれの部屋を笑いながら点検した。そして、無事女性2人、男性2人の組み合わせで寝た。
部屋は薄暗くて、それ以上楽しくもなく、ロマンチックでもなかった。
早朝、4人は無口のまま、まぶしい朝日を浴びながら道玄坂を歩いて帰った。
私たち女子には何も起こらなかった。たぶん男子にも。
それからしばらくして、長期ロケで西インド諸島に行った。
ハイチだったろうか、土地のお金持ちが親日家で、お屋敷の一部が日本家屋だということで、私たちクルーはそこに招かれた。
確かにそこには日本庭園と日本家屋があった。でも、そのお金持ちは少し勘違いをしてるみたいだった。
私は思わず「なにこれ! まるっきり連れ込み宿じゃない」と言ってしまった。
一瞬シーンとして、全員が私の顔をのぞき込んだ。
「ヤッコ、君もそういうところに行ってるんだ!」誰かがそう言ったけど、私は言い訳をしなかった。 |