オルタード・カーボン 特別対談 リチャード・モーガン×田口俊樹
オルタード・カーボン 特別対談 リチャード・モーガン×田口俊樹
 
各紙誌書評から
旅先で何度も寝不足になりながら感動
作家 椎名誠 氏 (週刊文春4/28号「風まかせ赤マント」より)
 太平洋のまわりを四角を描いてぐるんとまわるような長距離移動の旅の間にすいぶん沢山の本を読んだ。面白いのもあったしそうでないのもあった。
 唸ったのは『オルタード・カーボン』だった。数百年単位の未来の話はいろいろ書かれているがこのSF世界は二十七世紀。「たましい」を破壊されないかぎり実質的な不老不死が可能になっている。そういうもの凄い世界を舞台に繰り広げられる予測のまったくつかないハードボイルドアクションだが、時空を越えた純愛偏愛小説、家族小説と読むこともできる。
 話の展開はハイテンポで凄絶で、何よりもディテールがきわだっていてグロテスクにリアルなのだ。SFにしかできない強烈なエンターテイメントとはこういう小説を言うのだろう。
 かつてジュディス・メリルという人が『SFに何ができるか』という評論を書いたことがあるが、SFはこのようにして完全に新しい世界を描くことができるのだなあ、と旅先で何度も寝不足になりながら感動していた。
秀逸な人物造形とプロット堪能
文芸評論家 北上次郎 氏 (産経新聞4/3朝刊書評より)
 リチャード・モーガン『オルタード・カーボン』(田口俊樹訳、アスペクト)は、二十七世紀のベイ・シティ(サンフランシスコ)を舞台にした長編だ。その時代、人間はデジタル化され、スリーヴ(肉体)を乗り換えていけば、何歳までも生きることができる。それは、新たな肉体を買うことのできる金持ちだけの特権ではあるのだが、ようするに人間がある意味では不死を獲得した時代の物語である。
 それではSFだろ、といわれかねないが、何百年も生き続けている富豪から、オレを殺そうとしたやつを見つけてくれと依頼されるのが発端で、真相究明に主人公が乗り出す物語の結構はハードボイルドといっていい。
 フィリップ・カー『偽りの街』がナチス統治下のベルリンを舞台にしていたことを思いだす。汚辱にまみれた街であるなら、ハードボイルドに最適の舞台は過去未来を問わないということだろう。二十七世紀のベイ・シティもまた、猥雑(わいざつ)な街であるのだ。
 かくて、遠い昔に日本の系列が作った入植星育ちのタケシ・コヴァッチが、百八十光年離れた地球に電送され、他人のスリーヴを借りて蘇り、彼の謎解きが始まっていく。
 群を抜く人物造形、めまぐるしいアクション、巧みなプロット。どれを取っても一級品で、たっぷりと堪能させられる。なんといっても、主人公のタケシ・コヴァッチがカッコいいのだ。その魅力が全開である。今月の収穫。
ダン・ブラウンより読ませる作品
文芸評論家 池上冬樹 氏 (週刊文春4/28号書評より)
 『ダ・ヴィンチ・コード』のダン・ブラウンの新作『デセプション・ポイント』よりもはるかに読ませるのが、リチャード・モーガンの『オルタード・カーボン』だろう。己が心情に忠実な、タフなハードボイルド探偵が現前する。つまりサイバーパンクでありながら、最も伝統的なハードボイルドの魅力が横溢しているのだ。
 驚きに満ちた設定、目眩むような細部、秀逸なアイデア、迫力に富むアクション、そしてひねりのきいた物語と申し分ないし、作者の日本贔屓("タケシ"は北野武からとられ、村上春樹の小説も引用されたり)も嬉しくなる。間違いなく今年の収穫の一つ。採点は必読の★★★★1/2。
死ににくい社会 どう生きるか
ファンタジー評論家 小谷真理 氏  (日経新聞5/12夕刊エンジョイ読書欄「目利きが選ぶ今週の3冊」より)
  生きにくくなった社会をどう生きのびるか、というテーマはよく目にする。しかし、死ににくくなってしまった社会でどう生きるかという問題は、案外盲点だ。と言うのも、本書の舞台は、人間の一生がデータとして保存され、いついかなる時でも再生可能な社会になってしまった未来社会だからだ。データとして保存されていれば、何度死んでもすぐ甦ることができる。ただし、処理には莫大なお金がかかるので、お金があればあるほど死ににくい。
  さて、ある富豪が自殺をし、早速再生される。でも自分が自殺なんてしそうもない性格だということを知っていて、誰かに殺されたのではないかと疑い、私立探偵に調査を依頼する。これが本書の主人公タケシ・コヴァッチで、かつて違法行為をしでかしたために、しばらく再生をゆるされていなかった存在。
  凄腕の探偵があの世から復帰するような展開には、ウェットな情の世界を超然と見据えるようなハードボイルドふうの雰囲気がなかなかよく似合っている。不老長寿達成社会には、そのぶん怨念も蓄積するだろうから、乾いた感覚は必要不可欠かも。
心身二元論の極限を考察する究極の哲学的SFだ
永江朗氏・『不良のための読書術』著者
 70年代の挨拶は「P・K・ディックを読んだか?」であり、80年代は『ニューロマンサー』だった。いま私は「『オルタード・カーボン』をもう読んだか?」という。意識/記憶と身体のダウンロード/コピーが可能になり、生と死の境界が曖昧になったとき、人生の意味は?これは心身二元論の極限を考察する究極の哲学的SFだ。
フリーライター 温水ゆかり 氏 (ダ・ヴィンチ2005年5月号より)
 ココロはチップに、カラダは取り替える殻に! ヒトを"人"たらしめる要素が溶解した超未来でも、愛は可能なのか? SFの設定がせつなすぎる27世紀の純愛ハードボイルド。輪廻とは、人類が夢見た自己保存の謂いだったのだろうか?
書評サイトgoodreading主宰 清水有人 氏 (ダ・ヴィンチ2005年5月号より)
 とにかく、贅沢な小説だ。重厚な"ハードボイルド"であり、どこか日本的な情緒も感じられる"ドラマ"であり、しかもSF。"サスペンス"のドキドキ感もたっぷり味わえる。そのどの部分も上質で、しかも互いを食い合わない。
ハードボイルド精神と奇想が横溢する世界。ディックの後継者、ここに登場!
櫻井一哉 氏 (週刊SPA5月3/10合併号〜book&comicより)
 デジタルの特性は、劣化することなく半永久的に保存可能ということ。その特性を応用すれば、延命、再生医療、老化抑制どころか、人類の永年の夢である不老不死の薬が実現する!? そんな発想をベースに繰り広げられる、型破りなSFハードボイルド・ミステリーが登場した。「オルタード・カーボン」、つまり"変身コピー"によって、死を迎えた人間の心はデジタル化され、小さなメモリに書き込まれる。その中で経済力のある人間は新しい肉体(アンドロイド)を購入し、そこにデジタル化された精神をダウンロードすることで生き返ることができるという、高度な文明を獲得した27世紀の物語だ。肉体はスリーブと呼ばれ、戦闘マシンやセクシーな女体など、目的によってさまざまな肉体に生まれ変わることができる。一方、犯罪者は心のみを収容庫に拘禁されたまま、何百年も放置されることになる…。
 主人公のタケシ・コヴァッチは、元特命外交部隊員。肉体的にも心理的にも高度に訓練された戦闘要員だ。除隊した彼は恋人とともに犯罪に加担して170年の刑期を送っていたが、何度も蘇生をくり返す資産家がタケシの腕を見込み、ある特殊な事件を解決するために、大金をはたいて身元引受人となる。
 映画『ジャッカル』よろしく、元テロリストや特殊工作員が善玉に返り咲いて活躍するあたりは、正統派ハードボイルドの展開。そこに、ウィリアム・ギブソンや映画『マトリックス』が描いたようなバーチャル空間がドラマに立体的な座標軸を加える。さらにデジタルのクローン技術によって死者が何度も蘇るという多層的な状況も、本作は余すところなく使いこなす。実は、解決すべき事件とは、資産家自身を殺害した犯人の発見であり、依頼主は、なんと殺害された資産家のバックアップデータだったりする。黒幕の裏には黒幕があり、随所にちりばめた布石が後半に見事に生きてくる。斬新なアイデア、緻密な未来像。それだけに留まることなくみっちり楽しませる筆力。出版後に即、映画化が決定したというのも頷ける快作だ。
魂をメモリー化する未来
翻訳家 深町眞理子 氏(読売新聞5/8朝刊「本よみうり堂」書評より)
 オルタード・カーボン? 一瞬とまどうが、文中に“変身コピー(オルタード・カーボン)”とあり、まずは納得。この小説の世界では、人間の魂はデジタル化されて小さなメモリー・スタックに記録され、うなじに埋めこまれている。肉体が死んでも、スタックが無事なら、それを“殻(スリーヴ)”と呼ばれる別の体にダウンロードして生き延びられる――代替スリーヴを用意できる財力さえあれば。
  27世紀。元特命外交部隊員として高度の戦闘能力を身につけたタケシ・コヴァッチは、故郷の植民惑星で犯罪に関与し、長期の保管刑(肉体を奪われ、魂だけが拘禁される)に服しているが、刑期途中でとつぜん見知らぬ男のスリーヴをまとって目覚める。そこは地球のベイ・シティ。彼を甦(よみがえ)らせたのは、先ごろ自殺した富豪バンクロフト。バンクロフトは予備のクローンとスタックですぐに生き返ったが、自分の死は自殺ではなく他殺だと確信していて、前後の事情の調査をタケシに依頼する。報酬は10万国連ドルと、新しいスリーヴ。残り117年の刑期も打ち切られ、即座に釈放されるという。
  この作品はすでに映画化が決まっているとかで、たしかに映画向きの派手なSF的仕掛けに事欠かないが、話の運びはハードボイルド・ミステリー、数多の妨害にもめげず真相を追求してゆくタケシの姿勢も、ハードボイルドの孤高な探偵そのもの。ハードなアクションのおまけもある。保管刑にされた囚人の肉体は、維持費が払えなければ売られるとか、どんなスリーヴにも過去があり、それが新たな所有者には違和感となるとか、細部もよく考えられている。
  作者はロンドン生まれだが、相当の日本通らしく、タケシをはじめ、人名や地名に日本語由来の語が多用されている。だがなによりうれしいのは、タケシを人間としての矜持(きょうじ)を持った男に描いてくれている点。どんな修羅場でも、けっして下卑た罵(ののし)り言葉など口にしないタケシ。彼の活躍をもっと読みたい。
生命倫理へ鋭い切り口
慶応義塾大学教授・アメリカ文学 巽孝之 氏 (北海道新聞5/1朝刊書評欄より)
 十代のときにシェークスピアを読むのと中年になって読み直すのとでは、まったくちがう。しかし本書に描かれた二十七世紀以後、人類が宇宙に拡散した遠未来では、人間は生まれたときから皮膚スタック(メモリー装置)を埋め込まれ、人生の時々に感じた思いのすべて、経験のすべて、すなわち心のすべてがデジタルで記録される。したがって、死後はそのスタックを新しい肉体(スリーヴ)に移し替えれば、文字どおり第二の人生を楽しむことができる。カネに糸目はつけない向きは、あらかじめ自身の変身コピー(オルタード・カーボン)を何体も作っておけばよい。人類はとうとう肉体からも死からも解放された。カトリックは抵抗勢力なのだ。有名人の記憶データをサンプリングして疑似体験させるハッカー技術(ディッピング)も人気を博し、その悪用で捕まった人間のうちには、自身の肉体を取り上げられ、他人の心を植えられてしまった手合いもいる。
 折も折、大富豪バンクロフトの殺人事件が起こった。もちろん大富豪はすでに新たな肉体をまとっている。だが、彼はどうしても殺された理由を知りたいといい、元特命外交部隊エンヴォイ・コーズの隊員タケシ・コヴァッチに依頼。彼は自ら肉体を次々に乗り換え多くの人間を殺し、あろうことか依頼主の夫人とも性交渉を結びつつ捜査を進めていく。そして、バンクロフトは自殺とは別の意味で自己の肉体を抹消せざるをえない事情があったのではないか、という推理を展開するも、それすら真相へ至る第一歩にすぎなかった−−。
 デジタル文明が急成長を遂げた果てに、いかなるハードボイルド・ミステリが可能なのかを探求したイギリスの新鋭リチャード・モーガンは、一九六五年生まれのイギリス作家。二○○二年発表のこの第一長編により、フィリップ・K・ディック賞を受賞。ディック原作の映画「ブレードランナー」から二十年余、本書は当時は想像もできなかったほどに力強い生命倫理への挑戦である。傑作。
Web本の雑誌 新刊本を斬る!
今月の新刊採点【単行本班】の皆様から感想を頂戴致しました。
◆安藤 梢 氏  評価:A
  SFハードボイルド・ミステリ……。なんだそりゃ、と思ったが読んでみたら、まあその通りだった。27世紀、人が死なない時代がくる。精神をデータ化することで、肉体を入れ替えながら人は生き続けるのだ。なぜか羨ましいとは思えない。必死で生にしがみつく人間の不気味さだけが際立っている。人の死を何とも思わないような何百年も生きた人間が、自分の死に対しては異常に怯えている。そのエゴの塊のような生への執着は、おぞましいとしか言いようがない。じわじわと敵を追い詰めていく謎解きの部分よりも、アクションシーンの方に重きが置かれ、その残酷さは、読みながら思わず目を背けたくなる程である。  肉体が取り替え可能であるにも関わらず、人々は自分の肉体や、愛する者の肉体を守ろうとする。結局、目に見えるものに左右されてしまう人間の可笑しさが浮き彫りになっている。

◆磯部 智子 氏   評価:A
  いやはや27世紀は地獄絵図か。もちろんそれは不死をお金で買える時代をどう捉えるかにもよるが。人間の精神はデジタル化され、肉体が滅んでも新しい肉体にそのメモリー・スタックを付け替えれば永遠に生き続けられるという。持てる者は自分のクローンを何体も持ちスタックすらコピーを取っている。そんな大富豪の一人が自殺と断定された自分の死の真相を調査するよう甦った本人自らタケシに依頼する。170年の服役中だったタケシには恩赦や様々な条件が提示され早速その調査にのりだすが、大富豪の疑惑を裏付けるかのような妨害が…。 とにかく面白く只ストーリーを追うだけでも充分楽しめる。でも同時に人間の根源に対する震撼するような問題も描かれる。死が究極の恐怖でないなら拷問がそれに代わる。肉体の死は終わりを意味せずスタックを新たな肉体に移し替えながら延々と拷問は続けられる。カトリックの考え方を利用して信徒をスナッフフィルムに使う人間もいる。肉体の売買もあり精神が別の体をまとう。300年以上生きた精神が30代の肉体の中にある時それはもう人間と呼べるのか?SFで暗黒小説、ハードボイルドでセンチメンタルなこの作品は非常に興味深く面白い。

◆三枝 貴代 氏   評価:B
  ミステリSF。このジャンルでは定番である、殺人あるいは自殺が無意味である世界におけるホワイダニット。密室トリックかもと思わせる要素もあって、ハードボイルドとしてはなかなか読ませてくれます。孤独なアウトサイダーはあくまで格好良く、謎の女はどこまでも魅力的。文章もハードボイルドの伝統にのっとっていて、タイトで粋です。かっこいい。  しかしSFとしては、人格がデジタルデータに還元される社会において個人識別がいまだにDNA利用であったり、引退後まともな再就職先のない職業にすぐれたプロフェッショナルが集まったりするあたりの矛盾が、論理的でないと言えば論理的でないわけで、SFの人は嫌うのかもしれません。わたしはてっきり、その矛盾点が謎解きにかかわるのだろうと思い込んで、別の回答を想像し、みごとにだまされたのでした。

◆寺岡 理帆 氏   評価:A
  舞台は未来で小道具はSFだけれど、これはハードボイルドだ。人間の精神がデジタル化できるようになり、肉体は死んでも内臓スタックさえ新たな肉体にダウンロードすれば人は死なずに住む世界。けれど実際にそんなことができるのは一部の特権階級のみ。結局人間の営みは、本質的には何も変わらない。  タフでクールなコヴァッチとともに、読者は危険をくぐり抜けながら謎を少しずつ解き明かしていく。物語の世界観は独創的なのに、ストーリーは懐かしい。ワクワクするけれど安心して読めるのよね…。  舞台も凝っていれば、伏線もあちこちにきっちりと張り巡らされている。まさに上質のエンターテイメント。SF好き、ミステリ好き、ハードボイルド好き、どなたもきっと満足できるはず。
『オルタード・カーボン』は「Web本の雑誌」2005年5月の課題図書に選定されました。
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書店員の声
ジュンク堂書店大阪本店文芸担当 高崎立郎 さん
 装丁が美しい!続編もこのレベル、このテイストでお願いします。並べて楽しめるようなイメージで…。個人的に既存のSFに対する(ちょっとした)不満が、この作品で解消された感があります。テクノロジーによって死さえも乗り越えた人間がどうなってしまうのか…。使い古されたテーマではありますが、現在のテクノロジーで延長にある必然的未来として正面から描かれた作品は、この小説が初めてではないでしょうか(私の勉強不足だったらすみません…)。しかもアイデアだけでなく、アイデアをフルに活かしきったエンターテイメント性!脱帽です。というわけで、続編、期待しております。書店員として。その5倍ぐらいに一読者として。
紀伊国屋書店新宿本店SF担当 山川真智子 さん
 初回から売れ行き好調。箱入りで装丁も凝っているうえ、上下巻セットで読み応えもあるため、定価設定もちょうどいいのではないか。NHK-BS『週刊ブックレビュー』の影響で、さらなる売上が期待されます。
オリオン書房ノルテ店文芸担当 白川浩介 さん
 ハードSFの単行本にしては非常によく動いている。田口氏の手書きのPOPがいい文章であるため、その効果に期待している。


読者の感想 アスペクトのWEBページやメールでの感想より
 人からすすめられなければ、書店で出会っても当分(映画公開になるまで)読んでなかった1冊だった。なぜならその装丁はかっこいいのだけど、マニアックで、少し近寄りがたい雰囲気を持っていたからだ。しかし、しかしである。読み始めるとどんどんその世界にはまっていくのだ。『マトリックス』のジョエル・シルバーが映画化の権利を買ったのもうなずけるほど、マトリックス的な世界が展開し、ぐいぐいと引き込まれていった。SFであり、ハードボイルドであり、なんといっていいのかわからないが無茶苦茶かっこいい!これ、映画化されたらかなりブームが起きそうな予感。20〜30代の男性におすすめ!(31歳・男性・新聞社勤務)
 上下巻で合計750ページという分量に尻込みする向きもあるだろうが、読み始めると止まらなくなる。心配ご無用。(31歳・男性・出版社勤務)
 謎が謎を呼び、女への愛情、欲情がさらにストーリーを錯綜させる…。キャラクターの個性を簡単に把握させないプロットに翻弄されながらも読み手は謎解きと物語の迷宮にはまり込む…。本のコンセプトを体現したかのような装丁がまた素晴らしい一冊。(38歳・男性・DJ)
 かなり昔にウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』を読んだ時の感覚を思い出した。ストーリーや設定が似ているのではなく、技術によって価値観や常識が大きく変わった世界に浸りきって読み進む感覚といったら良いのか?インターネットの草創期、ニューロマンサーは西海岸で「ハッカーのバイブル」のように読まれたそうだが、本書もそのような扱いを受けるのか楽しみ。(38歳・男性・TV局プロデューサー)
 強烈な拷問の場面とセックスの場面が忘れられない。女性の登場人物たちのアクの強さ、美しさが際立っている。脇役も敵役もぐっとくる。(51歳・男性・会社員)
 近未来SFで一番大事なことは、我々が生きる現代から見て「変わるもの」と「変わらないもの」の区別の仕方というか、作者自身にその分類のポリシーがあるかどうかだ。なぜなら、それこそが作品にリアリティを与えるものだからだ。「変わるもの」を強調してこそ、「変わらないもの」を浮かび上がらせることができるからだ。何があろうと絶対に「変わらないもの」こそが、まさしく作り手が訴えたい、かつ読み手の心に残るポイントなはずだから。本作にはそれがある。(31歳・男性・雑誌編集者)
 
 装丁の美しさ、妖しさに魅かれて手に取った「オルタード・カーボン」。この美しい本の中に目も眩むような「未来」を見た。体は人間なのに、心はデジタル化されてしまう。しかも交換可能だなんて...。男女も入れ替わるの?それは面白い。倫理や宗教は?法律は?犯罪は?心に問いが溢れ、フィクションなのにグイグイこの世界に引き込まれた。男と女、老いにも若きにも交換可能...でも、私は永遠の命なんていらない。altered carbon「変身コピー」も一度は試してみたいが、想像するとかなり怖い。きっと耐えられないような気がする。慣れない体を使い、真相を探る姿、ある意味懐かしい文体に、27世紀に私立探偵「フィリップ・マーロウ」を発見した気分!しかも「ラブ・ストーリー」にもなっているなんて、贅沢すぎる。読み終えて、1週間まだクラクラしています。リハビリが必要かも(笑) (47歳・女性・グラフィックデザイナー)
 ウィリアム・ギブソンやディックの作品がそうであるように、ディテールが徹底したガジェット志向で、その描写や背景の設定にパワーが注がれているゆえに、ストーリーの骨子を理解するのにいくらかのエネルギーがいる。読み手の素養としては、サスペンス系大作の注意力が必要だ。 しかし、本作はディック賞を受賞したというふれこみに嘘はなく、科学がなし得る進化の到達点を下地に、かってのSFの世界が描い人間社会、人類の意識の変容が見事に結集されている。今の書き手が描く未来の世界観としては、兄弟が描いたそれよりもさらに強固であり、品格を漂わせている。映画化が決定しているようで、映像化がなされた後に、もう一度読み直したいと思う。(43歳・男性・フリーライター)
 このところミステリからもハードボイルドからも遠ざかっていたので、(本音を言うと活字からも少し離れていた)私にとっては「久しぶりに大作にチャレンジした」という感じです。オビの宣伝に偽りなしのド迫力、デビュー作とは思えない凄い本です。著者リチャード・モーガンの筆力は驚きの一言。(田口さんの切れ味鋭い訳文も素晴らしい)
 異彩を放つ美麗な装丁の誘惑に負けて購入しましたが、ノワールなハードボイルドに免疫がないせいか、細部の描写のリアルさ、怖さにドギマギしてしましました。脳ミソと心が激しく揺さぶれ、あっちに引っ掛かり、そっちで躓き、何とか3週間で読破。弱った私の読解力に喝を入れられた感じです。これは読み手の読解力がしっかり試される本ですね。若い頃なら浅薄な理解で好き嫌いを語っていたかもしれません。凄まじい筆力で書かれた作品なので、映画化は時間とお金がとっても掛かりそうだと余計な心配しちゃいました。(44歳・女性・会社経営)
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