『若者は本当に右傾化しているのか』 古谷経衡(ふるや つねひら) 著者インタビュー

最近かまびすしい「若者の右傾化」をめぐる左右両派の言説を、統計データに基づき、鋭く分析した古谷経衡氏が語る、イマドキの若者たちの政治的メンタリティ。
現在、若者たちの間で広まっている「ワンピース保守」、そして今後登場が予測される「ソーシャル保守」とは何か。

著者近影

――まず、本書の執筆動機からお聞かせください。

最初にアスペクトさんからいただいお話では、「自己責任論の嘘」というアンチ・グローバリズム的なテーマでした。これについては言いたいことはたくさんあったのですが、取り上げる領域が広すぎるためなかなか筆が進まなかったんです。

そこで、視点を変えて、若者の貧困や雇用といった問題は保守論壇の中でなぜ黙殺されているんだろうと考えてみました。さらに考えを進めると、そもそも保守(右派)と左派のいずれも若者について誤解しているという、ここ数年私が感じていることと結びつくことに気づきました。そうしたら、どんどん話が展開してきまして、気づいたら一気に書き上げていました。

――その若者に対する誤解が「右傾化」というキーワードだったわけですね。

私が保守論客として活動し始めたときから今日にいたるまで違和感の一つに、保守派の中高年の方たちは、若者に対して変な期待を抱いているというのがあります。これは保守派だけでなく、左派も同様なんですが。

たとえば、保守派の方たちは、「インターネットを使う若い世代が愛国心に目覚めている。これは大変素晴らしいことだ」みたいなことをすごく言うわけですね。反対に左派は、「若者がインターネット上で右翼的な発言をしている。これはゆゆしき傾向だ」だみたいなことを言う。要は、左右どちらもイメージ先行で、若者に対して過剰に「期待」または「警戒」しているわけです。

そもそも現在の2ちゃんねるを中心としたインターネット保守的空間というのは、前提的に中心の世代が30代、40代、50代で、「若者の空間」ではそもそもありません。インターネットで保守的な見解を表明する人は、本当の意味での「若者」ではないのです。これがまず最大の誤解。インターネットから生まれた「ネット保守」の平均年齢は、いまや約38歳と高齢化が進んでいます。

常に、「インターネット=若者」という図式がありますが、この認識はすでに限界に達しています。ネット保守の中心は「アラフォー」で、大都市部に居住する比較的富裕な自営業者です。クラブで遊んだり合コンに行ったりする「20歳前後の屈託のない若者」とは、そもそも実態がかけ離れているのです。しかし右も左も、「若者が右傾化している」「若者が愛国心に目覚めている」と言います。彼らの想定する「若者」はいつも「街頭にたむろする屈託のない20代」ですが、実際はもっと上の世代が中心なのです。

さらにもっと言えば、私の学生時代の友人、そして今周りにいる若い方たちも、私の皮膚感覚としては「左右どちらでもない」というのが正直なところです。全体を俯瞰すると、7割に近い中立層がいて、その左右に「マイノリティー」としての左右がある、という感じがします。ただ、私の皮膚感覚だけで、若者が右か左かを論じても信頼性が低いので、今回は内閣府や大手メディアが行なった統計調査などのオープンソースを使って、今騒がれている「若者の右傾化」について検証しつつ、今の若者(もう少し上の世代も含めて)が、国についてどのようなことを考えているのか、政治に対して何を求めているのかなどについて論じてみました。

――古谷さんご自身は今31歳ということですので、「広義の若者世代」と思うのですが、今のお仕事は保守論客、つまり思い切り右傾化していますよね(笑)。

私の場合はちょっと特殊なんです。

よく、「出身地の北海道は左派が強いから、その反動で保守になったんですか」と聴かれるのですが、そういうわけではありません。小中高を通じて日教組的な強烈な反日教育を受けたことはありません。今振り返ると、ちょっと左寄り、リベラルだったかなと思う程度で、別に自虐史観を植えつけられましたとかそういうことはありませんでした。イデオロギー教育を受けるのは義務教育や高校ではなく、実は「大学」での基礎や専門科目であると強く思います。アカデミズムの世界は強烈な左傾イデオロギーが支配していますので。義務教育時代に教わるのは正確に言えばイデオロギーではなく、「思いやり」「環境」「平和」「人権」「民主主義」など、いわゆる「戦後民主主義」「近代啓蒙思想」的なもののイメージであって、本当のイデオロギー教育とは違います。だから、そういった意味で、今の学校の義務教育で育った若者は、強固な左傾的イデオロギーは薄いか存在しない、と言って差し支えないでしょう。「人権」や「平和」を教わるのは別段悪いことではない。他人の気持ちを思いやりましょうとか、学校で教わるわけですが、基本その影響でどんどん丸くなって、おとなしくなっているような気はしますが、「左傾イデオロギー」に洗脳されているというのとは違います。学校教育とその反動としての右傾化は、私の見るかぎり無関係です。

私が保守思想や愛国という概念に興味を持ったのは、プラモデル、正確に言うとミリタリー趣味の影響ですね。たとえば、軍艦のプラモデル(タミヤのウォーターラインシリーズ)を買うと、パッケージにその軍艦の戦績が書かれていたりするじゃないですか。それに興味を持って戦史や歴史について調べてみようとか。小学生の頃から「歴史群像」や光人社の戦史シリーズとか架空戦記を大好きで読んでいました。だから、最初はイデオロギーじゃなくて、純粋な趣味から入っていきました。

たとえば、軍オタみたいなミリタリーに興味を持っている人たちって、自然とイデオロギー的にも右寄りになっていくんです。そもそも旧日本軍の装備や軍装が好きですから、自然と「大東亜戦争史観」的になっていきますね。私もこういう流れで保守になりました。要は、私は「ミリタリー保守」なんですよね。これは今勝手に作った保守カテゴリーですが(笑)。インターネットのブログとか番組を観て「愛国心に目覚めた」というタイプではないんです。小林よしのり氏の『戦争論』には確かに影響を受けましたが、架空戦記が流行ったのはそれ以前の90年代中盤くらいで、私はむしろそっちに影響されて保守的になった人間です。

ですから常に、「保守」というものに対して、心理的な距離感があります。模型や小説といった趣味の価値観からイデオロギー的シンパシーを感じた人間なので、保守の「政治活動」とか「政治運動」というのには、前提的に冷めています。その心性は本書にも如実に反映されていると思います。

――ところで今回の本の中で、ある大手新聞社が20代を対象に行なった統計調査で、「安倍首相の靖国神社参拝を支持しますか」という問いに対して、「支持する」が60%でした。これについては本書の中でも論じられていますが、改めてお考えをお聞かせください。

若者の皮膚感覚としては、「戦争で亡くなった方を祀った靖国神社に行くのは日本人として当たり前だよね」とか、「戦争で亡くなった人たちはかわいそうだよね」ということですよね。これは、たとえば、自分が属する共同体を大切にしようとか、家族や友人など周りの人に思いやりを持とうとか、ご先祖様の気持ちを考えようといった、人間としてごく当たり前の感覚から支持しているのであって、保守派が期待する「保守的課題への賛同」とは別物だと思います。さらに踏み込んで言うならば、今の韓国や中国に対する反感も、「他国から不当な扱いを受けてむかつく」といったごく当たり前の感覚なんだと思いますよ。

保守派は若者の反応を自分の都合のいい方に受け取ってしまうという傾向が左派よりも強い、と思うことがしばしばありますね。以前、尖閣デモ(尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に際して、中国大使館への抗議)に参加したときのことなんですが、代々木競技場(第一体育館)の前を通りかかったら、たまたまその日は倖田來未さん(だったと思います)のコンサートがあって、ファンのヤンキーみたいな子たちがクラウンとかセルシオとかGTRとかで代々木公園横に乗り付けて、大勢集まっていたんです。そこにわれわれが通りかかると、みんな手を振ってくれるわけです。そうしたらデモに参加した人たちがみんな感動しちゃって、ある年配の方なんか「あんな一見政治に関心なんか持たなそうな茶髪の若い子たちが支持してくれた。われわれの課題は若者にも浸透しているんだ」と言い出すから、思わず「おいおい、それは違うだろう!」という感じで(笑)。

確かに、私も保守論客の一員として、若者の間に保守的課題が浸透することを願ってやみませんが、若者を「願望」で観るのはやめていただきたいです。あの日、われわれに手を振ってくれた子たちの関心は倖田來未であって「保守的課題への賛同」とは関係がない。そういった無理矢理でこじつけな解釈は、正しい世の中に対する認識ではない。「願望」で現実を歪めるのは、若者にとっても保守派にとっても、不幸なことです。

――倖田來未とか加藤ミリアとかを聴くような人たちって、家族とか友だち、仲間をすごく大切にするという、微妙にヤンキーっぽい傾向が強い印象があります。無理やり保守的な言葉に置き換えると、同胞融和の精神に通じるところがあるというか。

それは、ヤンキー保守というか「ワンピース保守」(私が作った造語)ですね。つまり、ファミリーが大事、仲間が大事、仲間が困っていたら助けに行くという世界観を重視する人たちです。

今、若者の多くがワンピース保守になっているのは間違いありません。ただし、それは右傾化とイコールではないことに注意しなければいけません。もうわかりやすく言うと、『木更津キャッツアイ』(宮藤官九郎脚本)に描かれたような若者の「地元化」です。それは何よりも経済的な理由が大きいですよね。就職できないとか、給料が安いとか、親と一緒に暮らしていた方が家賃がかからなくて生活が楽だとか、そういうことですよね。だから必然的に地元にいつくようになるわけです。

地元にいるしかないから、地域の人間関係とか、そういう縦横のつながりを大切にせざるを得ない。地元の祭とか、神社とか、次第に身近なものに感じてくるようになる。必然的な地元化が振興しているわけです。ただ、若者に地元化が顕著になったからといって、それは「保守的な課題への賛同」とイコールではありません。単純に所得水準、生活の養成の結果です。こうした若者のメンタリティを、右派・左派ともに無理やり右傾化といったイデオロギー的な世界観にこじつけようとするから、話がおかしくなるのだと思います。ワンピース保守化する若者たちが、地元の神社にたむろしているからといって、彼らの興味は古事記とか神社本庁に向かうのでしょうか? もちろん、向かいませんよね。若者の一挙手一投足を「保守的課題への賛同」とイコールだと早合点するからいけない。そういう逆ベクトルの「ファンタジー路線」みたいなのは、とりわけ保守の中高年に多い気がする。若者に期待をし過ぎているというか、保守派の中に若者がまだまだ少ないから、お歳を召した方はそう思いたいのでしょう。いわば「願望」です。だが、「願望」と「現実」は違うものです。

――本書では、今おっしゃったような若者の雇用や貧困問題について多く語られていて、結論として「ソーシャル保守(社会的保守)」という新しい思想潮流の誕生を予測されていますよね。

現段階では、ソーシャル保守(※編集部注:当たり前のように愛国心を持ち合わせ、一方で同胞融和の精神に基づく弱者救済にも力を入れる新しいタイプの保守層を指す古谷氏の造語)は私個人の予測にすぎず、実際にはまだ登場していないので明確なことは言えませんが、日本人の体質がそもそもソーシャル保守的なのかなと考えています。つまり日本人は、誰に言われるではなく、微温的に共同体や、社会の秩序を重んじる協調性質があります。欧米のような「リヴァイアサン状態(万人の万人に対する闘争)」というよりも、共助、共生の方が民族性に合っているのでしょう。そんな当たり前の感性を持っているのがソーシャル保守という一群です。国を愛するとかそういった「当たり前のこと」をいちいち表明しなくても済むクラスタ。現在、貧困や雇用といった社会的な問題の救済を担っているのは、この国の左派ばかりで、社会問題の解決は左の専売特許のようになっている。本来は右(保守)が、同胞融和の観点からやらなければならない。それをやるのが、ソーシャル保守です。保守はそろそろ、国家論だけをいうのではなく、広く社会的問題への解決に、歩を進めなければなりません。

そして、その「ソーシャル保守」が誕生することで「若者の右傾化」という言葉は消え、日本は新しい思想の時代に突入することでしょう。愛国心や同胞への慈しみを前提とした、本当の意味での「左派」と「右派」が出現するのでしょう。愛国心の濃淡を基準に鑑別されている現在の左右のイデオロギーは、大変に歪なものだと言わなければなりません。こういった歪な日本社会は、しかしやがて正常化されると思っています。

――本日は、ありがとうございました。

若者は本当に右傾化しているのか 書影
若者は本当に右傾化しているのか?
  • 古谷 経衡 著
  • 定価:本体価格900円+税
  • ISBN978-7572-2300-4
  • 判型:新書/並製
  • ページ数:244

注目の若手保守論客が若者論の嘘を暴く!

「若者の右傾化」を「懸念」する人も、「歓迎」する人も知っておきたいイマドキの若者の本音。

「若者が右傾化している」の根拠は次の通り。

・20代の60%が「首相の靖国参拝」に賛成している。
・2014年都知事選で20代の24%が田母神氏に投票した。
・『永遠の0』に多くの若者が感動の声をあげた。
・生活に困窮する若者が「ネット右翼」になっている。

しかし、統計データを丁寧に検証すると、実態は...。

【購入者全員に特別音声プレゼント】 『若者は本当に右傾化しているのか』特別対談 ソーシャル保守の可能性 古谷経衡×田中秀臣
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【著者略歴】
古谷経衡
古谷経衡(ふるやつねひら)
評論家/著述家。昭和57年(1982年)北海道生まれ。
立命館大学文学部史学科卒業。ネットと「保守」、マスコミ問題、アニメ評論など、多岐にわたる分野で評論活動を行なっている。著書に『反日メディアの正体 「戦時体制」に残る病理』(KKベストセラーズ)、『ネット右翼の逆襲』『クールジャパンの嘘』(ともに総和社)、『ヘイトスピーチとネット右翼』(オークラ出版・共著)などがある。
●古谷経衡公式WEBサイト
【対談出演】
田中秀臣
田中秀臣(たなかひでとみ)
1961年生まれ 上武大学ビジネス情報学部教授。早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。国土交通省社会資本整備審議会委員。著書『日本経済は復活するか』(編著 藤原書店)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『デフレ不況』(朝日新聞出版)、『経済政策を歴史に学ぶ』(ソフトバンク新書)など多数。『昭和恐慌の研究』(共著 東洋経済新報社)で日経経済図書文化賞受賞。
●田中秀臣公式ブログ