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スリルな夜に犯されて
二條暁男 著
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片田舎で鬱屈した日々を送る元ヤン・圭輔は自慢の愛車を運転中、ハンドルをとられ道脇の稲荷神社にド派手に突っ込んでしまう。その夜、寝つけずにいた圭輔は暗闇に包まれた室内に並々ならぬ気配を感じる……。 やがて暗闇から姿を現したのは、先ほど半壊にいたらしめた祠の主・仙狐の燿安。案の定、祠を壊してトンズラしたことに腹を立て、圭輔の命を奪いにきたという。命を助けてくれたら何でもすると神頼みする圭輔。すると燿安に裸に剥かれて……!! 超ハイテンション・オカルティック(!?)ラブ!! |
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「ま……さか……、ゆ、……うべの……稲荷の……?」 「やっと気がついたか」 声は、不明瞭だった。しゅうしゅうと吹き付ける息の中に、うなり声が混じる。 「我が名は燿安《こうあん》。御先稲荷寄方《おさきとうがよるべ》だ。貴様が庄司圭輔だな。社《やしろ》を破壊せし者、この罪をいかにして購あながわせてくれようか」 「あ……、あれは、仕方ない、事故……だったん、……あや、あやまる……からさ……」 なんとかしてこの忌々しい緊縛から解放されようと、必死になって藻掻く。だが、爛々と輝く紫色の瞳に睨み据えられた体は、縫いつけられたように指の先まで動かない。 「愚か者め、我は仙狐、神獣の長《おさ》ぞ。我に捧げる貢ぎ物を、貴様が用意できるというのか」 びいん、と部屋中の空気が張りつめる。 テレビの前に並べられた、食玩のおまけがいくつか、ふっと宙に持ち上がる。精巧な動物のミニフィギュアの中から数点を、銀色の長い爪がつまみ上げる。 「我が好物は……雉、鹿、馬、牛、熊……そして貴様ら、人猿の肉だ……」 ヤツは青白い顔をぬっと目の前に突き出すと、やけに赤く長い舌で、俺の頬を舐め上げた。その感触と来たら……。どんなエロい女でもかなわないほど、まざまざと生々しい、肉の感触だった。 「……うわっ、うわーっ、勘弁してくれ、俺はまだ死にたくねえッ」 気が狂いそうな恐怖感が、俺を失神から救っていた。 「安心しろ。私に食されることで、貴様の魂縛《こんばく》は高天原《たかまがはら》に迎えられようぞ」 「行きたくない! そんなところイヤだぁッ」 ふっと全身を束縛する力がゆるみ、自由になった瞬間、俺は目の前の怪物の胸を思いっきり蹴りとばした。そして体勢を立て直すと、枕を抱えてベッドの隅に縮こまった。 「威勢がいいな」 ヤツは俺の伝説の右足キックを食らって、びくともしないどころかニヤニヤ笑いすら崩さない。 遠くからやってくる車のハイビームが、カーテンの隙間から横顔を照らし出す。 「あ……っ、ああぁ……ッ!」 銀色に輝く髪。耳は人間と同じ位置にあるが、細かい繊毛と虹色にきらめく飾り毛に被われている。アイラインきつめのきりりと吊り上がった二皮の鋭い瞳。眉もまつげも輝くばかりの銀髪で、ジャラッジャラと首飾りを下げている。 これは……前のカノジョが好きだった……アレだ、ビジュアル系バンドとか言う奴じゃねえか……。 そう認識すると、急激にはらわたが煮えくりかえってきた。 前のカノジョは、俺の知らないウチに商売道具のトラックを担保にあちこちから金を借り、売れないバンドマンにせっせと貢いでいた。気がついたときは後の祭り。借金だけを俺に押しつけて、二人揃って逃避行したあとだった。 「てめえ、さては隣に新しく入居したバンドマンだな! 俺は長髪で、ナヨナヨ化粧をした奴が一番嫌いなんだよ! 不法侵入で一一〇番してやるぞゴラ!」 やにわに髪の毛を引っぱり、左手でちゃぶ台にのった雑巾を掴むと、白すぎる顔にぐりぐりと押しつけた。 「化粧を落とせこのオトコオンナ! ネコミミもだ! どうせ化粧がなけりゃ、俺よりずっとブチャイクなんだろが!」 「まだわからぬかッ!」 びいん、と空気が震えた。 俺の体はヤツの視線だけで羽交い締めにされ、固定されているようだった。 色鮮やかな飾り糸の垂れる檜扇《ひおうぎ》を拡げ、その端っこを俺の胸にツツッと這わせると、ニスモのシャツがぺりんと剥ける。 「神をも恐れぬ狼藉者《ろうぜきもの》め、貴様の心臓は、特別に生きたまま引きずり出してやる」 「あ……」 ガンメタリックに輝く長い爪で、震える皮膚をすうっとなぞると、俺の胸は石榴《ざくろ》の実みたいにぱっくりと口を開いた。ヌラヌラと血に濡れた肋骨の隙間から、桃色の肺が露出する。 「ウワーッ! や、やめろぉーっ!」 そのとき、俺はがホラー映画よりなにより医者物、とくに手術シーンをバッチリ映すドキュメンタリーものが大嫌いだった事を思い出した。 するとヤツは、これはしたり、と、やおら唇の端を吊り上げて、笑った。長すぎる犬歯が、上下互い違いに生えている。 本当に、人間では、ない。 こいつはマジものの心霊現象だ! 「わかった、わかったごめんなさい、もうしません! 何でもするから成仏してください!」 「本当に心からそう思うておるのかァ?」 檜扇越しに俺を見据える紫色の双眸《そうぼう》に、金色の輝きがともる。 すると、ブン、という音がして、突然、部屋中の電気が灯った。ラジカセのCDが鳴り始め、電子レンジが回り、そして小さなテレビ画面には、昨日レンタルしてきたエロDVDが流れはじめたのだ。
*この続きは製品版でお楽しみください。 |
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